背中の距離

 額を額にくっつけたまま告げる。
 そのわずかな接触部分を通じて互いの熱が直に触れ合う。

「昨日のひなと、今の鈍いひな。どっちも好きだ」
「……!」

 その告白は刃のように日奈子の胸を抉る。
 赤面したまま硬直する彼女を至近距離で見つめ、陸が目を細めた。

「可愛い」

 独り言のように零れた囁き。
 それは普段の陸を知る人間ならば信じ難いほど柔らかく、甘い声音だった。
 優しさと獰猛さが違和感なく同居したような、矛盾した魅力が滲み出ている。
 そして――ゆっくりと、陸の顔が降りてきた。

「拒否しないなら、キスする」

 問いかけの形をとりながらも、彼の瞳には拒絶される気配を微塵も感じさせない自信が宿っていた。

「ま、待って……!」

 日奈子が慌てて制止の声を上げた。
 唇まで残り数ミリのところで、陸がぴたりと止まる。
 吐息が交錯する極限の距離で、彼は黙って日奈子の瞳を見つめた。
 恐怖と期待が複雑に絡み合いながらも、陸が自分の言葉に従ってくれたことに、日奈子は安堵を覚えた。

「……そ、そういうつもりで部屋に泊めたわけじゃなくて……こ、心の準備というか……っ」

 必死に弁解する日奈子の声が暗闇に溶けていく。
 震える指先がシーツを掴み、か細い声は弱々しい。
 彼女の動揺が痛いほど伝わってきて――陸は長い睫毛を伏せ、小さく息を吐いた。
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