背中の距離

「……っ」
「聞きたい?」
「い……いい。言わないで……」
「じゃあ教えない」

 ふっと笑った陸の声は愉悦に満ちている。
 耳から首筋へ移動していく唇が、今度は日奈子の項に触れた。
 吐息混じりの低い声が、直接肌を震わせる。

「……ひな、いい匂いする」
「そ、そうかな……。陸も、いい匂いだよ」

 何気なく発した日奈子の言葉に、陸の動きがぴたりと止まった。
 沈黙が一瞬だけ流れ――次いで、低い唸りのような声が返ってくる。

「……それ、反則」

 その声にはもう、からかうような調子は含まれていない。
 次の瞬間、陸が日奈子の肩を掴み、シーツに押し込むようにして仰向けにさせた。
 すかさず覆い被さり、日奈子の逃げ場を完全に塞ぐ。
 暗闇に目が慣れていく中で、見下ろしてくる陸の瞳が、飢えた獣のようにぎらりと光るのが分かった。

「……っ」

 圧迫感と、彼の衣服から香る微かな洗剤と男の匂い。
 日奈子は反射的に息を呑んだ。
 赤らめた顔で固まる彼女の頬を、陸の大きな手のひらが包み込む。
 熱を持った長い指先が、耳の裏から顎のラインへと、ねっとりと愛撫するように滑り落ちていく。

「……嫌なら突き飛ばしていい」
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