背中の距離

「ソファーじゃ身体を痛める」

 心配する口調だが、結局自分が一番隣にいたいだけだ。

「……わ、わかったよ……今日だけね」

 ようやく日奈子が折れた。
 間接照明だけ残し、部屋の扉まで歩いて少しだけ開けておく。麦の自由な出入りを見越しての配慮だ。
 再びベッドに戻ると、陸はすでに壁側を向いて横になっている。
 日奈子も同じく背を向けて横たわった。

「……おやすみ、ひな」

 背中越しに聞こえる柔らかい声。

「うん……おやすみ」

 二人の距離は抱擁よりもずっと遠い。
 それでもお互いの体温だけは微かに感じられる奇妙な近さ。
 日奈子が照明を完全に落とすと、室内は月明かりに染まった。
 カーテンの隙間から零れる青白い光が、並んだ肩のラインを淡く浮かび上がらせる。

(……どうしてこんなことになってるんだろう)

 目を閉じながらも思考は冴える。
 二日前に出会ったばかり、けれど昨日の朝まで一夜を共にした人。
 それが今や同じ枕で寝ている。

(でも……嫌じゃない)

 薄闇の中でシーツが擦れる音がした。
 微かな布地の摩擦音。同時に背中に感じる体温。
 陸が寝返りを打ったのではない。明らかに意図的に日奈子に近づいてきたのだ。
 その距離の近さに日奈子の呼吸が浅くなる。
6/12ページ
スキ