背中の距離
「……あ、あの」
口ごもる日奈子の頬を、陸の右手が優しく包み込んだ。
「嫌なら止める」
その言葉とは裏腹に、顎を拘束する指には微塵の緩みもない。
逃げ道を塞ぎながらも、選択の余地だけを与えている狡猾さ。
陸の吐息が唇にかかり、体温が溶け合っていく。
心臓が壊れそうなほど早鐘を打ち、抵抗すべきかどうかの判断さえできない。
日奈子はただ、眼前に迫る陸の整った顔と、その奥底に潜む、焦げ付くような欲望の炎を見つめるしかなかった。
拒絶する勇気も、受け入れる覚悟も決めきれないまま。
浴室から立ち上る湯気のように、白く霞んだ空気が二人を包み込んでいる。
日奈子が身動きできずにいると、陸の口から諦めにも似た深いため息が零れた。
日奈子の顎から指を解くと、ゆっくりと手を離す。
その動作はあっさりとしすぎていて――まるで最初から選択肢などなかったかのように。
日奈子の瞳が混乱で揺れている。
「……困らせて悪かった」
予期せぬ謝罪に、日奈子は言葉を失った。
リビングへと戻っていく背中が、心なしか寂しく見える。
ソファーに腰を下ろし、前足でタオルをふみふみしている麦を見つめながら、陸はぽつりと呟いた。
「……麦とソファーで寝る」
口ごもる日奈子の頬を、陸の右手が優しく包み込んだ。
「嫌なら止める」
その言葉とは裏腹に、顎を拘束する指には微塵の緩みもない。
逃げ道を塞ぎながらも、選択の余地だけを与えている狡猾さ。
陸の吐息が唇にかかり、体温が溶け合っていく。
心臓が壊れそうなほど早鐘を打ち、抵抗すべきかどうかの判断さえできない。
日奈子はただ、眼前に迫る陸の整った顔と、その奥底に潜む、焦げ付くような欲望の炎を見つめるしかなかった。
拒絶する勇気も、受け入れる覚悟も決めきれないまま。
浴室から立ち上る湯気のように、白く霞んだ空気が二人を包み込んでいる。
日奈子が身動きできずにいると、陸の口から諦めにも似た深いため息が零れた。
日奈子の顎から指を解くと、ゆっくりと手を離す。
その動作はあっさりとしすぎていて――まるで最初から選択肢などなかったかのように。
日奈子の瞳が混乱で揺れている。
「……困らせて悪かった」
予期せぬ謝罪に、日奈子は言葉を失った。
リビングへと戻っていく背中が、心なしか寂しく見える。
ソファーに腰を下ろし、前足でタオルをふみふみしている麦を見つめながら、陸はぽつりと呟いた。
「……麦とソファーで寝る」