夜の静けさと湯気の向こう

「猫、平気?」
「……猫」
「飼ってるの」

 陸の目が微かに光った。
 予想以上の速さで反応してきた。

「好きだ。見たい」

 その即答ぶりに日奈子は目を見開く。
 平気かと問うたら、即座に好きと返ってきた。
 その反応速度とズレた返答で、彼が猫好きなのだとわかる。

(……本当に、一癖も二癖もある人……)

 猫アレルギーへの配慮と警戒から聞いてみたら、逆に食いつかれて動揺する日奈子。
 不安はあるが、断れない圧力が徐々に心を侵食する。
 以前として陸は返事を求めない。ただ日奈子の選択を静かに待っている。
 その毅然とした態度に圧倒されつつも、やがて日奈子は諦めたように小さく息を吐いた。

「じゃあ……どうぞ。散らかってますけど」

 日奈子が鍵を開け、先に部屋に入る。
 後ろから陸が続いて玄関に入った。
 靴を丁寧に脱ぎ揃え、几帳面に玄関マットの位置まで整える仕草が目に留まる。

 その瞬間――とたとたと、小さな足音がリビングの奥から聞こえてきた。

 現れたのは、雪のような白い毛並みに、ほんのり茶が混じった子猫。
 日奈子の気配を感じ取り走ってきたが、陸の姿を見るなり動きがぴたりと止まった。
 尻尾がピンと立ち上がり、つぶらな瞳がまん丸になって震えている。
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