夜の静けさと湯気の向こう

 日奈子は思わず息を呑んだ。
 まさかの申し出に頭が真っ白になる。
 彼はあの夜、酒に酔った勢いで身体を重ねた相手だ。
 その人とまた一夜を共にする――容易く了承できるはずがない。

「え……と」

 戸惑いを隠せない日奈子に対し、陸は目を細めて返事を待つ。
 プレッシャーを与えるわけでもなく、ただ静かに待っている。

「嫌なら帰る」

 その言葉に嘘はないように感じられる。
 でもその一言を告げるのに、彼の中で相当な葛藤があったはずだ。
 日奈子はその意思の堅さを読み取って言葉に詰まる。

「い、嫌じゃないけど……急だったから」

 日奈子の返答に陸は小さく息を吐く。
 安堵したような、それでいて責任を取る決意を固めたような重たい呼気だった。

「じゃあ、開けてくれ」
「え、あ、でも」
「嫌じゃないんだろ」

 低く、静かな声。
 反論の余地がない。
 しかし乱暴な要求ではない。
 日奈子が自らの意思で招き入れることを求めている。

「……あの」

 日奈子は躊躇いがちに陸を見上げた。
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