夜の静けさと湯気の向こう

 水族館を後にした車内は静かだった。
 車窓の外を流れる灯りが現れては消えていく。
 水中トンネルで優雅に泳ぐ魚達、青い水槽の中で揺らめくクラゲ、ペンギンパレードの愛らしい行進――今日の出来事が脳裏を駆け巡る。

 運転席の陸は無言だった。
 エンジン音の規則正しい音だけが車内を満たしている。
 彼の横顔を盗み見ると、深い思索に耽っているようにも見えた。

(本当に不思議な人……)

 外科医という理知的な職業でありながら、時に直情的な一面を覗かせる。
 出会った当初は取っつきにくい印象だったが、一緒に過ごすうちに、そのギャップが魅力的に感じられていた。

 日奈子は膝の上できつく拳を握りしめる。
 陸と過ごしたこの半日は本当に楽しかった。
 でも一方で、二日前の出来事を思い出すと胸が痛む。
 酒に溺れた自分が犯した過ちと、それを受け止めようとする陸――複雑な感情が絡み合う。

 マンションに着くと、陸は駐車スペースに車を滑らせた。
 エンジンを切って鍵を抜くと、何も言わずに日奈子側のドアを開ける。

「……着いた。暗いから気を付けて」

 淡々とした声だ。
 けれど、その一言に宿る優しさは確かに感じ取れる。
 日奈子は軽く礼を言って車を降りた。
 エントランスホールでエレベーターを待ち、階数ボタンを押す。
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