水族館デート

「……なんで」

 陸の声に疑問の色が濃く滲んだ。
 クラゲが放つ淡い光が、彼の端正な顔に静かな陰影を描く。

「実は、高校の時から一人暮らししてるんだ。家賃も安くないし、学生バイトも限界があったから、当時はいつもカツカツで。少しでも収入がいい会社に入りたかったの」

 照れくさそうに笑いながら、日奈子は遠い記憶を辿っている。
 その明るい口調とは裏腹に、陸の表情が硬くなった。

「……高校から一人暮らし」

 彼の低い呟きには、重い質量が伴っている。
 遠くでは週末の客達が、イルカショーを見て歓声を上げていた。

「親は」

 短く刺さるような質問。

「いるよ。ご存命です」

 日奈子の即答に、陸の眉が怪訝そうに動く。

「一緒に住まなかったの」
「うん、色々あって。……あ、そろそろペンギンパレード始まるかな?」

 タイミングよく館内放送が流れた。
 ペンギンパレード開始の十分前を告げる。
 周囲の客が一斉に移動を始めた。
 その喧騒に紛れて、日奈子がわざと会話を閉じたのがわかった。
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