水族館デート

「水族館に来たの、高校生の時以来かも」

 日奈子の言葉に、陸が自然な流れで問いかけてきた。

「高校、どこ」

 さりげなく、しかしここ数時間で、最も踏み込んだ質問だった。
 水槽の青い光が、陸の端正な横顔を神秘的に照らしている。

「私、F高校だよ」

 答えると、陸はしばし考えるように視線を宙に彷徨わせた。

「……俺、T高校」

 日奈子も聞いたことがある進学校の名だ。
 生徒のほとんどが医学部や法学部を目指す進学校として知られている。

「あ、そこ知ってる。有名だよね。私のとこは商業高校だよ」

 陸がぴたりと足を止める。
 目の前の巨大水槽では、巨大なエイがゆったりと旋回している。
 翼のようなヒレが、水中の光を遮りながら通過していった。

「商業高校って、簿記とかやるの」
「うん。簿記一級と会計簿記持ってるよ」

 陸の細い双眸が、驚きを湛えてわずかに見開かれた。
 いつも無表情な彼の珍しいリアクションに、日奈子は内心どきりとする。

「……すごいな」

 短い賞賛の言葉に嘘は感じられない。
 しかし同時に、陸の眉間には薄い皺が刻まれている。
 その理由を悟る前に、日奈子は苦笑交じりに続けた。
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