水族館デート

◇

 入口を潜ると、そこから一気に別世界だった。
 天井までのガラス壁から差し込む自然光が、幻想的な空間を作り出している。
 水中トンネルで悠然と泳ぐ魚達や熱帯魚が、きらめく鱗を煌めかせながら縦横無尽に動き回っていた。

「わあ……」

 日奈子の口から感嘆の声が漏れる。
 都会の真ん中に突如現れたこの異世界は、それほどまでに非現実的で美しい。

「すごいね、陸」

 やや興奮気味に振り返り、日奈子は陸の反応を見る。
 陸も水槽を見上げていたが、日奈子ほど高揚している様子はない。

「……好きなのか? 水族館」
「好きっていうか、普段はこういう所に来る機会もないから」
「……そうか」

 短い返事。
 けれどその声音にはどこか、安堵感が含まれているように日奈子には感じられた。

 「順路はこちら」と書かれた矢印に従って歩き始める。
 手は繋がれたまま、日奈子はその背中を追いながら周囲を見渡した。
 平日の午後とはいえ週末。家族連れや若いカップルが目立つ。
 皆、楽しげな笑顔を浮かべている。

(デートっぽいな……)

 休日に一人の男と女が、こうして手を繋ぎながら一緒に水族館を歩いている。
 この状況を客観的に考えてみると、やはりデート以外の何物でもなかった。
 ただ相手が恋人ではなく、ワンナイトの相手だという奇妙な状況でなければ。
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