水族館デート

 しかし彼の手はぴくりとも動かない。
 むしろ指先に込められた力がわずかに強まる。
 歩幅も明らかに日奈子に合わせて歩いている。
 全てが無意識なのか計算なのか、判断に迷うほど完璧な距離感だ。

「……陸、背高いね。身長どれくらい?」

 話題を変えようと問いかける。
 陸は前を向いたまま、僅かに顎を引いた。

「百八五」
「高いね……」

 そう呟いた瞬間、陸の足が止まる。
 日奈子の頭頂部に、繋いでいない方の手をそっと乗せた。
 温かい指先が、髪の隙間を梳くように撫でていく。

「わ、私、背が低くて」

 なんとなく気恥ずかしくなり、小さな声で付け加える。
 陸は手を離さないまま、ぼそりと呟いた。

「ちょうどいい」
「?」

 意味がわからず小首を傾げると、陸は正面から日奈子を見据えた。

「小さい方が守りやすい」

 まるで独り言のような小さな声。
 しかし確かに、日奈子の耳にしっかりと届いた。
 その言葉は妙に胸に響く。
 記憶のない二日前の出来事よりも、このたった一言の方が、ずっと現実味を帯びて感じられた。

(……本当にこの人に抱かれたのかな?)

 陸の人柄を知る度に、あの夜の記憶が夢のような気がしてくる。
 この寡黙で真面目そうな人が、酔い潰れた自分に欲情したなんて信じられなくて。
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