ハデ始

『天界にいる人類代表達の内数名が猫になったらしくての~』

「万愚節にはまだ早いと思わぬか? 末弟よ」


言外に大いに愚か者がと言わんばかりの皮肉を込め、末弟ゼウスからの連絡をハデスは一笑に付した。
荒唐無稽なる報告を寄越してきたギリシャの最高神との会話を早々に切り上げ。
これほどに下らぬ連絡は何億年ぶりかと懐かしんでいれば。

目の前を悠々と横切る猫が一匹。


「…………」

見覚えのあり過ぎる目隠しと耳飾りのミニチュア版を身につけている猫をハデスは無言で眺め。
先ほどゼウスが連絡してきた内容を頭の中で反すうした。

その間にも我が物顔で侵入者は部屋を歩き。
軽々とした調子で備え付けのソファーへと飛び乗り。
ふかふかとした感触を一頻り楽しんだ後は何を考えたものか。
己が腹の下へと前足と後ろ足をしまい込み、ちんまりと座り込んだ。


「……人の王か?」

返事はない、代わりに耳のみが声がする方へと向けられた。
無精すぎるほど無精で尊大な反応に、おそらく確定かと神は理解した。

迷子にならなかっただけ良かったと思うべきであろう。
おそらく道中の壁は穴だらけにされていると予測はできるが。
部下達が城内の被害報告に来るのが間近であるとの確信はあるが。


抱き上げようとした際、予想以上に柔軟性に富みよく伸びる猫を前に。
いかにして逃がさぬかの算段を神は頭の中で立て始めた。



ゴッドブラザー
マフィアのドン形式の確保方法。


end
(2023/02/22)
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