雷鏡

「オレもキスマークってのを鏡斎につけてみてぇ!!」
「……そうかよ」

次の紙を用意しながら鏡斎は雷電の言葉を聞き流した。
完全に相手にされていない反応。
それにもめげずに雷電は鏡斎に近づいた。

「なぁ、つけてもいいか?」
「…………」

筆を走らせる鏡斎からの反応はなかった。
絵に集中している間は無視をされる事は分かっているので、縁側の柱に背を預けながら雷電は気長に待つことにした。

鏡斎が絵を描いているところを眺めるのを雷電は気に入っていた。
真っ白の紙に流れるように墨を置いていく姿も、描いた妖怪が本物になる瞬間も見ていて飽きなかった。

何時間か経過した後、何十枚となく淀みなく筆を滑らせていた鏡斎は筆を止めた。
描き途中の紙を無造作に掴み丸め、雷電の顔めがけて放った。

「いてっ」
「いつまでそこにいる気だ。来るもんも来なくなるだろ」
「よく言うぜ」


描くことを止めた鏡斎に対し、期待した目で雷電は質問した。



「で、つけさせてくれんのか?」
「……つけたら帰るのか?」
「おう!」


笑いながら返事をする雷電とは対照的に鏡斎は顔を顰めた。


雷電は知った事をすぐに試したがる。
始めはどこで余計な知識を仕入れてくるのかと思ったが、何の事はない、他の幹部達が教えていた。

噺を集めるついでに流行りの噂話まで耳に入れてきて雷電に話すのが柳田。
興味を持った部分を質問する雷電に対し、根気よく教えるのが珠三郎。
それでも分からなかった雷電に、話を噛み砕いて説明するのが圓潮。

知った時には全員がグルだと思った。
雷電の知識が増えるのならそれに越した事はないだろうと言う理由が白々しかった。


「何処につけていいんだ?」
「……何処でもいいから早くやれ」

襟元を無遠慮に広げてくる相手に対し、さっさと終われとばかりに鏡斎はため息をついた。
鏡斎の首筋に顔を埋め強めに吸い付いた雷電は、キスマークを付けたはずの場所を眺め首を傾げた。



「ん~ちゃんとつかねぇな?」
「ついてるだろ、目立たないだけで」
「キスマークってのは赤くて目立つもんなんだろ?」
「オレの肌色考えてから言え」
「他の場所ならどうなるんだ?」


馬鹿な奴ほど、まともに相手をするだけ無駄な気がしてくるの典型例。
目を輝かせながら訊いてくる雷電を前に、とうぶん帰りそうにもない事を理解した。


馬鹿正直
「……試せばいいだろ」


end
(2011/11/10)
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