かむあぶ 2

オレンジと黒のツートンカラー、ついでに色とりどりの仮装。
どぎつくなった春雨の施設内を歩きながら神威は首を傾げた。

「天人が仮装する必要性ってなんだろうね?」
「さぁな」
「俺はご馳走さえ食べられれば十分なんだけどなー」
「強制仮装じゃないだけましだろ」

会場に着き、さらに極彩色になった視界から視線を反らしたくなった。

「だいたいさ、いつもの姿でも十分仮装してるだろ天人って」
「そうか?」
「そうだよ、例えば前方に見える二足歩行の犬とか」
「人に向かって指差すな団長。ありゃ、勾狼の旦那だろ」
「肥えた豚がキンキラキンに着飾ってるのとか」
「…………」

会場内の壇上で延々と喋り続けている阿呆提督を指し示す神威に、コメントさえ出なかった。
たしかに肥え太ってはいるが言っちゃいかんだろ、と阿伏兎はため息をついた。
長々と続いていた開催の挨拶が終わると、各自一斉に料理へと群がり始め。
テーブルの近くに陣取っていた神威は、並べられていた料理を大破させる勢いで食べ始めた。

「こう言う会場で食べるのってなんか物足りなく感じるよね」
「団長、口に物詰め込みながら喋るな、せめて食い終わってからにしろ」
「阿伏兎、その料理何?」
「食いたいなら自分で取れ」
「両手が塞がってるからムリ」

右手に肉の塊、左手にこれでもかと料理を盛った皿。
どっちかを置けばいいだろとも言いたくなったが、言うだけ無駄かと悟り。
笑顔で待っている神威の口へと料理を放り込んだ。


「もう少し品よく食べられないものかのう、第七師団長殿?」
「やあ、第四師団長さん。羨ましい?」
「どこかじゃ」

皮肉を気にも留めずに返され、孔雀扇を持った美女は顔をしかめた。

「それにしても、珍しいですね。こんな場所に第四師団長さんが来るなんて」
「くだらんが、提督からの召集。断る訳にもいかないじゃろ」
「そう言うわりには、仮装してますね」

黒を基調とした第四師団長の服装に対し、神威はケラケラと笑った。

「さしずめ、悪い魔女ってところかな?」
「誰が仮装をするか。これはドレスアップと言うものじゃ」
「へーそうですか。コスプレと見紛うばかりですね」
「おい、団長」
「ふん。子供のお守りは苦労するのう? 第七師団の副団長殿」

思わず胃がキリキリと痛みそうなほどに居心地の悪い空気の中。
しっかりと手綱でも握っていろと言わんばかりに美女は釘を刺し。
挨拶回りのためか早々に裾を翻して去っていった。


「ありゃりゃ、行っちゃったね。何しに来たんだろう?」
「知るか。挨拶回りの一環だろ」
「それより阿伏兎。次は何を食べようか」
「まったく、アンタはよく食べますねぇ。団長様」

気付けばこれでもかと持っていた料理はすでになく。
次はデザートコーナーにでも行こうかとのたまう上司。
夜兎の中でも特に大食漢な青年を前に、諦め調子で阿伏兎はため息を吐いた。


ハロウィンパーティー
後で噂になる第七師団のバカップルの見せつけ。

「阿伏兎、その料理もちょうだい」
「なあ、団長。アンタもしかして狙ってやってないか……?」


end
(2020/10/04)
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