雷鏡

「鏡斎ってよぉ〈山ン本〉の〈耳〉に対して甘いよな」
「オレが柳田サンに、か?」

何を言っているのかと問い返すように鏡斎が見上げれば。
言い逃れすんなよとばかりに雷電は責めるように目を細めた。

「甘めーぜ、すげーな」
「……気のせいだろ」
「へぇ?」

鼻で笑いそうな音量で返した雷電は今にも話を切り上げようとする鏡斎を抱き寄せた。

「……止めろ。いい加減寝かせてくれ」
「あいつってオレらのこと親父の一部として見てるよな」

事実と言えば事実だが、おそらく真に言いたいことは別かと思いながら。
雷電の好きなようにさせている鏡斎は口をつぐみ、話へと耳を傾けた。

「オレそれがスゲー嫌でよ、だから余計にお前が甘いなと思うぜ」

ピロートークにしてはずいぶんと不穏な声色で話は続けられ。
いつも筆ばかりを持つ鏡斎の腕を掌中で弄んでいた雷電は無抵抗さに気をよくしながら。
自分より細い相手の手首を無遠慮に掴んだ。


「よく親父と重ねられてブチギレずにいられるな」

心でも許してるのかと。
憤怒に近い感情がこもった言葉を雷電は吐き捨て。
血肉を分けた兄弟以外には辛辣な側面がある雷電の言い分に鏡斎は薄く笑った。

別段、許している訳ではない。
元が山ン本に仕えていた妖怪で圓潮が組に入れ〈山ン本〉の一部となった他人など。
親父への忠誠心の延長線上で重ねられようと、利用価値があるから生かしているだけであって。

心許しているというなら、今の状況の方がよほど許している。
腕の骨を折られる寸前の力で掴まれていようと何とも思わない程度には。
お前に対しての方が甘いだろと。



許容の問題
伝わりにくい甘さ。


end
(2024/04/15)
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