◆柵
（圓鏡）

「お前さんと二人、何のしがらみもなく生きてみたいネェ」

噺家として人前で語った後、あばら家に足を運んだ圓潮は言った。
その言葉を聞き、鏡斎は目を細めた。
時折、この噺家は意味のないことを言う。
息をするより当たり前の欲求をしがらみと表現する。
組の為に描いているのだと思っているのだろうか。
それとも、人前で語る事を義務だと考えているのだろうか。
二人で生きたいのなら、他の〈山ン本さん〉はどうなる。
欠けていく中で最後まで残りたいという意味なのか。

「……しがらみの意味が分からねぇよ」

少なくとも、絵を描くのは組の為じゃない。
そう義務付けられて生まれたのか等は関係ない。
不満が伝わったのか、訂正するように圓潮は苦笑した。

「たとえばの話だよ」
「圓潮、あんた時々面倒だな」
「そうかい？」

意外だとばかりに圓潮が首をかしげた。
これで当分の間は何も言わないだろうと、鏡斎は筆を持ち直した。

「鏡斎」
「……なんだよ」
「他の何をおいても、生き残っておくれ」
「また、組の為か？」
「いや、あたしの為さ」

あと少しだからネ、と理解できない言葉を呟きながら圓潮は笑った。


（2011/11/14）