FGO

「本日はお招き頂きありがとうございました。つい長居をしてしまい……ご迷惑でしたか?」
「いや、実に興味深い話が聞けてとても楽しかったよ。思わず時間を忘れてしまうほどに」

日本文化の事を聞いてみたいと招かれた席は思いの外はずみ。
夕食の時間近くまで経っていた事を恥じるように小太郎は切り出し。
気にしなくて構わないと茶化す様に笑うバーソロミューに少し安堵した。
その後、お開きとなった席を立ちながら、ふと思い出した事を口にしてみた。

「そうだ。バーソロミュー殿、この後ご都合がよろしければ共に食堂に行きませんか?」
「食堂にかい?」
「はい。主殿やマシュ殿と少し遅めの時間ですが夕食を取る約束をしていまして、人数が多い方が楽しいかと」
「ああ、もちろん喜んで! ――と言いたい所だが。残念…だ……」
「バーソロミュー殿!?」

サーヴァントとしての筋力は、時に体格的にあり得ない事すらできる。
崩れ落ちるように倒れ込もうとしていた相手を小柄なその身で支え。
相手に意識がない事を確認し、小太郎は息をのんだ。

「ういーす、おすすめメカクレ同人誌(布教用)読み終わったでござ…」
「黒髭殿! バーソロミュー殿が意識を失い倒れました!」
「ん? んんー?」

無機質な扉が空気の抜けるような音と共に開き。
薄い本をヒラつかせながら入ろうとしていた黒髭に小太郎は叫んだ。

「至急医療班に連絡をお願いします!」
「あー小太郎君。それ…」
「いや、此処からなら僕が抱えていった方が早いかッ…!」
「小太郎君ー! それ寝てるだけなんで放っておいて大丈夫系!!」
「えっ、寝て……?」
「ういっす、ういっす。マジで寝てるだけ。単に8時が就寝時間なだけでござる」
「……8時に就寝」
「本の返却ギリギリで間に合うと思ったんですがねー」

テーブルに本を置きながら軽く言う黒髭に小太郎はぽかんとし。
自身が横抱きに抱え上げていたバーソロミューを見おろし。
言われてみれば、健康的な呼吸と顔色をしている事にようやく気付く。

「災難でしたなぁ。後はこっちでやっておくんで、ほいバトンターッチ」
「あ……はい。後をよろしくお願いします?」

腕の中にいたバーソロミューを軽々と黒髭に取り上げられ。
狐につままれたような様子のまま、お辞儀をしてから部屋を出ていく小太郎。
そんな少年を、人のいいような笑顔で黒髭は見送り。
扉が閉まって暫くしてから、笑みを消した。


「好みのメカクレに抱きかかえられるたぁ、いいご身分でござるな?」

どーせ内心の興奮を隠しながら時間を忘れ。
メカクレ少年との会話を楽しみまくった結果だろう。
まさに、ソータイなんとか、好きな相手と過ごす時間はめっちゃ早い現象。

「だが残念、今じゃ拙者が抱きかかえておりますぞ。プークスクス」

メカクレ少年に醜態を晒し。
さらにさらに、後日からかわれるのが必須な相手にベッドに運ばれる。
まさに泣きっ面に蜂、愉快痛快の極みとはこの事かと一頻りあおり。
穏やかな呼吸を零す相手に視線を一瞬落とし。
壁に備え付けられている扉の施錠パネルを、足で踏み抜くように押した。

「さすが拙者バランス感覚一級品! これがホントの足で壁ドン☆なんつって」

不衛生だの、汚れるだの、壊れたらどうするだのの文句は聞かない。
そんなものは無様に人の腕の中で眠る奴が悪い。
むしろ施錠してやるだけありがたいはずだ。

「本当に、無様じゃねーか。バーソロミュー?」

古参のおまけで気まぐれに最終まで強化されたこちらと違い。
まだ種火の1つも与えられず、再臨すら1回も済ませていない体。
どうせ召喚されやすさだけ見れば他の追随を許さない低レア。
手違いで霊基返還されようが、保管室に移っていようが。
高レア達にかかり切りのマスターは気付きもしないだろう。

コストカット、なんとも合理的な言葉だ。
不要な所は最低限、必要な所は最大限。
だから、強化すら一回もされていないサーヴァントに渡される魔力リソースは――本当に最低限だ。
これが陣地作成スキル持ちなキャスター組ならまた違っただろうが。
通常なら与えられた部屋で眠り続ける事すらザラだ。


「今日も魔力ブチ込んでおいてやるよ。――その腹の中にな」


end
(2019/08/17)
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