断片話

◆狡いのが大人
(こひな+信楽)


「おじさんは狡い大人なのでありませう」
「サラッと突き刺さる事言うなよ嬢ちゃん」

ヘラヘラと笑いながら言うと少女は興味をなくしたように出て行った。
一人残った部屋でタバコに火をつけながら、我ながら狡い対応だったと苦笑を零した。

「何で狐に告白しないのか、か……」

一息つく様にタバコをふかし、ぼんやりと思い浮かんだのは狐の事だった。
長屋で隣部屋同士で暮らしていた頃は、それがずっと続けばいいと思った。
今は四人でダラダラとした平和そのものの生活が続けばいいと思う。
仮に、もしも今ここで男の狐に真剣に好きだと言ったら?
今までの様に冗談を言い合える仲には戻らない。
女になった時だけの好意だったと狐が思うからこそ、今の関係を壊さない。

「大切だからこそ臆病になる――なんて、嬢ちゃんに理解できる訳ないか」

素直なのが子供の特権だと、狡くて卑怯な思考しかない大人は笑った。


(2012/10/26)
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