断片話

◆夢現
(カワサキ受け)

「……何で、オレはまた亀の背に乗ってるんだ?」

はて、と首を傾げるカワサキは、そもそもこの湖畔に来た覚えすらなかった。
ドンブラドンブラと湖畔を突き進む亀。
周りは霧に包まれた上に、月明かりぐらいしかない時間帯。
およそ非現実的な状況下に、頭は一つの答えをたたき出した。

「夢か!? 夢以外ありえねぇ!」

そうか夢か、と一人納得しながらカワサキはやけにリアルな周りの景色に感心した。
夢とわかった以上、楽しまなければ損。
ヴァカンスの時に見たのとはまた一味違う夜の湖畔。
アクセルが言っていた自然の奇跡は、夢の中でさえも綺麗だった。

「すっげえ……夢ってこんな臨場感たっぷりのもありかよ」

夢を夢と認識して行動できる。
その上、見た事もない光景を見れる。
一頻り夜の湖畔に感動している間に、亀の進行方向には城が待ち構えていた。
音を立てて持ち上がる水門。
ヴァカンスの時も同じことがあったよなと感慨にふけていれば、亀の頭が後ろを振り返った。
ぱくっと後ろ襟を亀に咥えられ、初めに来た時と同じように、豪奢な鉄の扉へと叩き付けられた。
鈍い音とともに、頭を打ち、痛む後頭部へと手を当ててうめいた。

「くっそぉ……またこれかよ」

乱暴すぎる降ろし方は夢でさえも一緒かよと悪態をつき。
まだ痛む所へと手を当てながら、ふと、疑問が浮かんだ。

「……いや、ちょっと待て。何で……夢の中で痛いんだ?」

限りなく嫌な予感がしながら、それでもまだ認めたくはない答え。
確認することが恐ろしすぎて、うかつに動きたくないほどの気分でいれば。
重苦しい錆びた音をたてながら、すぐ近くにあった城の扉は開いた。


(2014/05/21)
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