断片話

◆王様はわがまま 
(カワサキ受け)

「狡いと思わないかな? 君は吸血鬼の王だけど、それを理由に彼を傍に置くなんて」
「どこが狡い? 勝手に人の物を盗る方がよほど卑怯だ」
「彼はボクの城に来てくれた」
「連れ去ったの間違いだ」
「……――ッ! いい加減にしろよお前ら!? さっきから人の両腕引っ張って大岡裁きか!!」

ギリギリと肩が外れるかもしれない勢いで引っ張り合う吸血鬼の王二人。
間で両腕を引っ張られるカワサキは両方に聞こえるように怒鳴りつけた。

「普通は当人が痛がったら離せよ!」
「放した方が大切に思てると言うのなら、間違いだ。カワサキ」
「本当に大切なら、どんなに本人が痛がろうと離さないものだよ」
「馬鹿力なんだよ! 人の姿してるけど明らかに人の力じゃないだろ!?」

千切れるっ、と本気で腕の心配をし始めるカワサキ。
双方から引っ張るアクセルとロマンスは、互いに譲り合う気は微塵もなかった。

「そろそろ放したらどうだ」
「断るよ。彼はボクと一緒に来てもらう」
「そこら辺にしとけ、おじいちゃん方」

呆れた調子で近づいたフクメンは、アクセルとロマンスの頭を順に軽く叩いた。
唐突な衝撃に、カワサキの腕を掴んでいた手を緩めた双方。
一瞬の隙を逃すことなく、カワサキは二人の吸血鬼の手から腕を引き抜き。
救いの手を差し伸べたフクメンの傍へと急いで近づいた。

「フクメンさん!」
「大丈夫か? カワサキ」
「先輩が救いの神に見えるっす……」
「ああ、泣くな泣くな。怖かったなぁ」
「本当に腕が千切れるかとっ…!」

物理的に痛い腕に、目じりに涙をためながらカワサキは嘆いた。
その様子を、面白くはない表情で吸血鬼の王達は眺めた。


(2014/05/20)
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