断片話
◆電話
(カワサキ受け)
「はい、こちら稀少種犯罪対策課」
『ああ、本当につながった。その声はカワサキくんかな?』
のほほんとした声が受話器越しに聞こえ、一瞬肩を落としたくなった。
まさか電話越しに聞くとは思わなかった声に、多少口元が引きつりながら返答した。
「あー…えーと、ヴァカンスの時には大変お世話になりました……」
『ロマンスだよ』
「ロマンスさん。アクセルに用があるなら代わりますが?」
『アクセルに用はないよ。稀少種犯罪対策課にかければ君につながるかなと思って』
同僚だと言っていたから、と何処からかけているかは分からない相手は言った。
まさかあの城からなのかと疑問に思いながら、予想外の指定に首を傾げた。
「オレに、何か用が?」
『うん。ぜひ君に、もう一度来てもらえないかと思って』
「分かりました。日にちの指定とかはありますか?」
スケジュール帳を取り出し、別の用事と被らない日付を確かめながら、メモをとる準備はできた。
『そうだね。できれば今夜』
「こ…ッ今夜!?」
訊き返すように声をあげれば、フロア中の警官達の視線が突き刺さった。
慌てて身を隠すように屈み、声をひそめて確認を取るように尋ねた。
「きょ、今日の夜っすか?」
『そう。出来るだけ早く来てほしいんだ』
「……分かりました。じゃあ、今日の夜、アクセルとそちらに」
『アクセルは連れてこなくていいよ。ボクは君と二人で会いたいんだ』
「は?」
『湖畔に来てくれれば、ケン君が迎えに行くから』
「あのッ!?」
『待ってるよ。カワサキくん』
ぷつりと切れた電話。
特に予定もなかったが、強制的に入れられた約束事に、半ば唖然とするしかなかった。
何故こうにも、吸血鬼の王は他人の都合はお構いなしなのか。
「何だったんだよ今の……」
「どうした? カワサキ」
どっと疲れを感じて軽く愚痴っていれば、いつの間にかアクセルが近くに来ていた。
「……お前の友人から電話があったんだよ、アクセル」
「――何かあったのか?」
「そんな怖い顔すんなよ。緊急でも何でもない用件だったぜ」
むしろ、あれほどのんきな用件の電話を、警察署で聞いたことはなかった。
「どんな用件だ?」
「今夜、あの城に来てくれだと」
「そうか、今日の夜、ロマンスの城へか」
「言っとくが、お前は連れてくるなって言われたからな」
「何故だ?」
不思議そうな顔をするアクセル。
連れてくるなと言われた事に関しては、此方も多少引っかかってはいた。
ただ、依頼人(?)に言われた約束事を破るのも割とまずい。
考えた末、アクセルと一緒にいる際の、一番の欠点を思い出した。
「お前が方向音痴だからだろ?」
「では、一緒に行けばいい」
心配には及ばないぞ、と断言するアクセルはついて行く気満々だった。
言うのは簡単だが、まずもって集合場所を決めてもアクセルがそこに一人で着ける訳がない。
つまり、施設までお迎えコースか、仕事終わり直行コースかの二択しかない。
非常に面倒な選択肢に、ロマンスが言った連れてこなくていいは、気遣いだったのかと理解した。
(2014/06/03)
(カワサキ受け)
「はい、こちら稀少種犯罪対策課」
『ああ、本当につながった。その声はカワサキくんかな?』
のほほんとした声が受話器越しに聞こえ、一瞬肩を落としたくなった。
まさか電話越しに聞くとは思わなかった声に、多少口元が引きつりながら返答した。
「あー…えーと、ヴァカンスの時には大変お世話になりました……」
『ロマンスだよ』
「ロマンスさん。アクセルに用があるなら代わりますが?」
『アクセルに用はないよ。稀少種犯罪対策課にかければ君につながるかなと思って』
同僚だと言っていたから、と何処からかけているかは分からない相手は言った。
まさかあの城からなのかと疑問に思いながら、予想外の指定に首を傾げた。
「オレに、何か用が?」
『うん。ぜひ君に、もう一度来てもらえないかと思って』
「分かりました。日にちの指定とかはありますか?」
スケジュール帳を取り出し、別の用事と被らない日付を確かめながら、メモをとる準備はできた。
『そうだね。できれば今夜』
「こ…ッ今夜!?」
訊き返すように声をあげれば、フロア中の警官達の視線が突き刺さった。
慌てて身を隠すように屈み、声をひそめて確認を取るように尋ねた。
「きょ、今日の夜っすか?」
『そう。出来るだけ早く来てほしいんだ』
「……分かりました。じゃあ、今日の夜、アクセルとそちらに」
『アクセルは連れてこなくていいよ。ボクは君と二人で会いたいんだ』
「は?」
『湖畔に来てくれれば、ケン君が迎えに行くから』
「あのッ!?」
『待ってるよ。カワサキくん』
ぷつりと切れた電話。
特に予定もなかったが、強制的に入れられた約束事に、半ば唖然とするしかなかった。
何故こうにも、吸血鬼の王は他人の都合はお構いなしなのか。
「何だったんだよ今の……」
「どうした? カワサキ」
どっと疲れを感じて軽く愚痴っていれば、いつの間にかアクセルが近くに来ていた。
「……お前の友人から電話があったんだよ、アクセル」
「――何かあったのか?」
「そんな怖い顔すんなよ。緊急でも何でもない用件だったぜ」
むしろ、あれほどのんきな用件の電話を、警察署で聞いたことはなかった。
「どんな用件だ?」
「今夜、あの城に来てくれだと」
「そうか、今日の夜、ロマンスの城へか」
「言っとくが、お前は連れてくるなって言われたからな」
「何故だ?」
不思議そうな顔をするアクセル。
連れてくるなと言われた事に関しては、此方も多少引っかかってはいた。
ただ、依頼人(?)に言われた約束事を破るのも割とまずい。
考えた末、アクセルと一緒にいる際の、一番の欠点を思い出した。
「お前が方向音痴だからだろ?」
「では、一緒に行けばいい」
心配には及ばないぞ、と断言するアクセルはついて行く気満々だった。
言うのは簡単だが、まずもって集合場所を決めてもアクセルがそこに一人で着ける訳がない。
つまり、施設までお迎えコースか、仕事終わり直行コースかの二択しかない。
非常に面倒な選択肢に、ロマンスが言った連れてこなくていいは、気遣いだったのかと理解した。
(2014/06/03)