断片話

◆仕方がない
(アクカワ)

「今日はカワサキがいないな」

広告塔のミラが多忙のため不在というのは稀にあった。
が、カワサキがいないことは今までほとんどなかった。
警察署のフロアの一角で紅茶を飲みつつ、周りを見渡してもいない事にアクセルは、はてと首を傾げた。

「寝坊か、それとも、ついに借金取りに追われることになったか」

あり得そうな可能性を挙げつつ、カップに注がれていた紅茶をアクセルは飲み干した。
カワサキがいないだけでこうまで静かだとは思わなかった。
カップを置き、やれやれ言った表情でアクセルは立ち上がった。

「仕方がない、迎えに行くか」
「おーい、アクセル。まだ休憩時間じゃないだろ」
「ム……何だ?フクメン。オレはカワサキを迎えに行くだけだ」
「方向音痴なのにか?」
「…………」
「それと、今日はカワサキは殺人課の方に行ってるからな」

だから来ないぞ、と続けるフクメン。
すっかりと出端をくじかれたアクセルは椅子へと座り直した。

「カワサキが来ないからって、そう拗ねるなよ。アクセル」
「拗ねてなどいない」
「どこも人手不足だからしょうがないだろ?」
「拗ねていないと言っている」


(2014/05/25)
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