断片話

◆首筋の痕 
(アクカワ)

「随分と積極的な独占欲ね」
「何の事だ」
「気付く人の方が多いでしょ、アレは」

自分の首筋に指を当て、次いでカワサキの方へと視線を流すナヴィ。
ほとんどワイシャツの襟に隠れてはいるが、うっすらと見える痕。
本人だけは微妙な位置で隠れていると判断しているらしく、普段通りに振る舞ってはいる。
が、近くにいる人物達からは時折、その場所に視線を送られている。

「…………」
「本人に訊いたら、きっと蚊に刺されてとか慌てるでしょ?」
「ああ、蚊に例えられるのは納得いかないが、行為だけ見ればそうとも言える」
「はあ?」
「しかし、蚊のように本人の了解も得ず吸ったわけではないぞ?」
「え、なに? アレって本当に血を吸った痕なの?」
「なかなか好ましい味であった」

銀が入っていないことはもちろん、思考に関しても裏表がない。
カワサキの血の味を思い出し、アレは良かったとアクセルは一人頷いた。

「……貧血とかにならないといいわね」
「今朝、貧血気味を理由にナズナのレバニラを食べて喜んでいたぞ?」
「あーそう……」

からかう積りが、どうしてこうなったのか。
ナヴィはカワサキの首筋にある、実際にはまったく色気のなさすぎる理由の痕を眺め。
周りで気を使う人物達を憐れんだ。


(2014/05/23)
5/11ページ