凌Ⅳ

ファンに追いかけられるⅣを眺め、そのまま素通りしようとした矢先に凌牙は捕まった。
見覚えのある赤い線に、もう片方の端を掴んでいるであろう人物へと急いで振り返った。


「つれないじゃないですか、凌牙。運命の赤い糸で結ばれた仲の私を置いていくなんて」
「何処が運命の赤い糸だ!! デュエルアンカーをこんな用途で使うな!」
「逃がしませんよ……ファンに捕まる時は貴方も一緒ですから」
「離せ!!」

溺れる者は藁をも掴む勢いのⅣは、デュエルアンカーでガッチリと凌牙を捕まえたまま笑った。

「さあ、貴方のバイクに乗せてもらいましょうか」
「今日は乗ってきてない」
「はぁ?」
「たまたまそう言う気分だったんだよ!」

わかったら離せと怒鳴る凌牙に、Ⅳは頭を切り替えて笑いかけた。


「では、ファンを撒けるよう道案内をお願いします」
「一人で勝手に追いかけっこでも何でもすればいいだろ」
「忘れているんですか? デュエルアンカーで貴方と私は離れられませんよ、凌牙」
「このッ!」
「ほら、そうこう言っている内にファンが寄ってきましたよ」
「ッ!? こっちだ!!」
「おやおや、強引ですね」

凌牙に腕を引かれたⅣはニヤニヤと笑いながら走り出した。




公園の木や植え込みが生え茂る中に隠れ、一息ついたⅣは隣にいる凌牙へと話しかけた。


「まったく、フェンスを飛び越えたり、池の飛び石を渡ったり、逃げる過程が野蛮ですねぇ」
「そうかよ」

肩で息をする凌牙はⅣの軽口に対抗するだけの気力は残ってなかった。
近くにあった木にもたれかかり、呼吸を整えてから凌牙はⅣへと視線を向けた。

「……Ⅳ」
「ああ、少し静かにしていた方がいいですよ。どうやら追いつかれたようですから」
「先に言ッ…!?」

怒鳴ろうとした凌牙はⅣに口をふさがれた。


「テメーは馬鹿か。静かにしろって言ってんだろ」

ファンに見つかったらどうする気だと睨むⅣ。

その後暫く、何度か近くを通り過ぎるファンをやり過ごし。
探しても見つからない事で諦めがついたファン達がいなくなってから、Ⅳはようやく凌牙から手を離した。
そのまま怠そうに植え込みに背を預け、ポツリと呟いた。

「まあ別に、ファンを適当に相手することぐらい楽だったけどな」
「だったら、いつも通りに対応してればよかっただろ」

何のためにわざわざ逃げたんだと凌牙が睨むと、そんな事も分からないのかと小馬鹿にした態度でⅣは答えた。


「逃げたい気分だったんだよ」



傍迷惑な
「……後で迷惑料代わりに何か奢れ、Ⅳ」
「デュエルで俺に勝てたら考えてもいいぜ」


end
(2012/01/07)
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