凌Ⅳ

「お前にやる」

Ⅳに差し出した箱に、特に理由はなかった。

ただ偶然目についた物が、Ⅳが好きそうな物だと思って買っておいただけだった。
渡すのに理由なんていらないだろ、と心の中で言い訳をしながら相手の反応を待った。

驚いたように目を見開く相手に、さすがに唐突すぎたかと焦った。
次いで、明らかに歓喜ではない感情から体を震わせ始めるⅣに、ギョッとした。


「凌牙!! そこまで俺の事が嫌いだったのか!!」
「は?」

涙を溜めた目でⅣはギッと睨んできた。
何でプレゼントを渡そうとしただけでその結論にいくのか。
そう混乱してる間にも、外用の丁寧語が外れたままⅣは言葉を続けた。


「プレゼントだと!? そんな嫌がらせの産物をお前から渡されるとは思わなかった!!」
「ちょっ、と待てⅣ」
「俺はプレゼントなんて言う有難迷惑以外の何物でもない物は大っ嫌いなんだよ!!」

ファンからだけで十分だ、と叫んだⅣは踵を返して去っていった。
一人残された場所で手元に残った箱を眺め、ポツリと呟いた。


「……無駄になったな」




帰ってきた早々にどんよりとした空気を纏うⅣに、意を決してⅢは話しかけた。

「あの、Ⅳ兄様」
「なんだ、Ⅲ」
「凌牙は何の用で兄様を呼び出したんですか?」
「俺にプレゼントを渡したかったんだとよ」
「それで、そのプレゼントは……」
「断ってきた」

驚きを隠せず目を丸くするⅢに、当然の反応かとⅣは思った。


「……条件反射だからしかたないだろ」

悪かったと思ってる、と珍しく萎れているⅣは小さく呟き、ため息を吐いた。

後になって考えてみれば、馬鹿なことをしたと反省はしている。
ただ、あの包装紙とリボンのかかった物体だけは嫌悪感の対象でしかない。


「外で騒がれながらファンに貰う分には、笑顔で受け取れるんだけどな」

不意打ちもいい所の凌牙からのアレは効いた、とⅣは肘掛けに突っ伏した。


「兄様、まだ一部のファンからのプレゼントを引きずっているんですか」

Ⅳのファンの行きすぎた好意からのプレゼントを思い出しながらⅢは訊いた。
ファンが多ければ多いほど、中には変質的な者もいる。
けれど凌牙に限っては、まともな内容のプレゼントでない方がおかしい。


「Ⅳ兄様、後で凌牙に謝らないと後々気まずくなりますよ?」



気が重い
「……謝ればいいんだろ、謝れば」
「Ⅳ兄様!」
「くそッ、似合わない事するなよ凌牙の奴は」
「兄様、それは贅沢すぎる文句ですよ」


end
(2012/01/05)
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