凌Ⅳ

時々、周りから名前を呼ばれると上機嫌に見える笑顔で手を振るⅣ。
周りからの黄色い悲鳴を我慢しながら、凌牙は失敗したと思った。

極東エリアのデュエルチャンピオンのⅣが、こんな店に来てる時点で騒がれない訳がなかった。


「まったく、少しは気が利くかと思ったら、明日には記事にされてますよ」

やれやれ、と心底呆れた様子でため息をつくⅣ。
分かってるなら始めから言え、と思いながら凌牙は言い返せなかった。


Ⅳは紅茶好きだと、Ⅲが此方の知らない事を自慢するように言ってきたのが癇に障り。
だったら、その情報をせいぜい有効利用してやると意地になったのがいけなかった。

外用の笑顔でいるⅣは傍で見るぶんには十分優雅に見える。
それだけでも目立つものを、場違いに男二人でカフェに入ったのは敗因だったかもしれない。

何のために恥ずかしい思いまでして、こんな店に来たんだという言葉を凌牙は紅茶と一緒に飲み込んだ。


飲んだ途端に広がった紅茶の渋さに、思わず顔をしかめてカップをソーサーに戻した。
そんな凌牙の様子を気にかけず、平然とⅣは同じように注がれたはずの紅茶を飲んでいた。


「……美味いのかよ」

よくストレートで飲めるな、と思う気持ちから凌牙が問うと、カップから口を離してⅣは馬鹿にしたように答えた。


「この程度のお茶で私が満足できる訳がないでしょう」


次はもっと美味しい店をお願いしますよ、とさりげなく続けるⅣ。
それが誘いだと気づかないまま、凌牙は二度と一緒に店なんかに入るかと思った。



ティータイム
「さっさと出るぞ、Ⅳ」
「貴方にはゆっくりと楽しむ余裕すらないんですか? まったく心が狭い」
「おい、追加でケーキを注文するな!」


end
(2012/01/03)
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