凌Ⅳ

Ⅳがファンに刺された、そんな噂を聞いた時、随分と分かりやすい嘘が流れているものだと思った。


「自業自得だとでも言いに来たんですか?」


白いベッドに横たわるⅣを見るまで。


「怪我人を見舞うのに手ぶらとは、さすがですね」
「本当だったのかよ」
「はい? まさかデマかどうかを確かめるために来たと? 随分と暇ですねぇ」


ふてぶてしく小馬鹿にした態度で笑ったⅣは、何を考えたのかゆっくりと起き上がった。
ベッドに腰掛けた状態で服の前を解くⅣに何をする気だと思った。

「これでも、文句がありますか?」

不釣り合いな白い包帯がⅣの腹部に巻かれていた。
暫くの間見入っていると、わざとらしい溜息をついてⅣが肩をすくめた。


「まったく、怪我人を起き上がらせて服を脱がせるなんて、貴方のような人しかしませんよ? 凌牙」
「勝手に脱いだのはお前だろ」
「これで私に欲情したら即刻ナースコールを押しますから。ああ、警察の方が早いですか?」
「誰がお前に欲情するか!」


怒鳴りつけた途端相手は大笑いをした。
一頻り笑いが止まらず包帯が巻かれた部分を押えながら笑うⅣに、さすがに傷に響くだろと慌てた。

「おい、Ⅳッ!!」
「ハハッ……まったく俺の怪我を悪化させに来たのかよ?」

怪我人はいたわれよと軽口を叩くⅣに、心配するだけ損をした気分だった。
此方をからかって気が済んだのか、さっさと服の前を閉じⅣはベッドの中へと戻った。
そのまま目を閉じうとうととし始めるⅣに、何処までも自己中心的な奴だと思った。


「俺を刺した野郎は捕まったが、随分と訳の分からない事をほざいてたぜ」


独り言のように言うⅣは、さもおかしそうに笑った。


「俺を殺して自分だけの物にしたいだとよ、笑えるだろ?」



本性知らず
「まぁ、その前に無言電話や段ボール箱いっぱいのラブレターが来てたとかⅢが言ってたけどな」
「その時点で警察呼んどけよ」
「日常茶飯事に一々呼べるかよ」


end
(2011/12/29)
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