凌Ⅳ

「クソッ! 手前のデブが邪魔でⅢが見えねぇ!!」
「おい、Ⅳ」
「あっ! 何でそんなバカの為にわざわざ紅茶を注いでやるんだⅢ!? そんな奴水でも飲ませとけば充分だろ!!」
「……帰ってもいいか?」
「Ⅲがあのおまけ同然のチビの毒牙にかかったらどうする積もりだ凌牙!!」
「あったとしても逆だろ」


強引に喫茶へと連れ込まれた凌牙は、何でこそこそとⅢと遊馬の様子を眺めてなければいけないのかとため息を吐きたくなった。
周りの客に顔がばれないようサングラスをⅣはかけてはいるが、この調子でいるとばれるのも時間の問題な気がした。


「いいか、凌牙!! Ⅲは世間知らずなんだよ! それが最近やけに外に行くなと思ったら、案の定ろくでもない奴に引っかかってやがる! 心配するのが普通だろ!!」
「ブラコン野郎」
「来週、丸一日お前の為だけに予定を開けてやる。分かったら今日は付き合え!」
「…………」

やけくその様に言われたⅣの台詞に、何処まで切羽詰まった心境なのかと考えたくなった。
ただ、どう考えても弟の方を優先しているⅣに対し、あまりいい気分はしなかった。


「だいたい、弟が友達作ったぐらいで一々動揺する方が馬鹿だろ」
「Ⅴの奴がⅢを見送った後に本を逆にして読んでるのに気づかない時点で異常事態なんだよウチでは!」
「どんな基準だ」
「いいか、凌牙。お前だって妹が何処の馬の骨とも知れない野郎と出かける約束したら心配ぐらいするだろ!?」
「それは……」

ないだろ、と璃緒の性格を考え即答をしたくなったが、言葉を濁すだけにしておいた。
此処で否定をしたら話がさらにややこしくなる。
言葉を濁した事を肯定と取ったのか、気を良くしたようにⅣ話を続けた。


「分かったか凌牙。心配することぐらい、当然の――」
「Ⅳ?」


言葉を止め、食い入るように目を見開いたⅣの額には青筋が立ち始めた。
何かあったのかと視線を追えば、Ⅲと遊馬のテーブルを遮っていた客がいなくなっていた。
クリアになった視界の先、Ⅲと遊馬が仲良く話している光景が広がっていた。


「あ、の、野、郎ッ!……おまけ同然のチビの分際で!!」


ブチッとⅣから何かが切れる音がした。
椅子から勢いよく立ち上がり、サングラスをかなぐり捨てたⅣは遊馬達へと歩み寄った。



「Ⅲ! 今すぐそこのチビから離れろ!!」
「兄様? どうして此処に?」
「お前がそこのチビとデートの約束をしてたからだ!」
「ちがいます! 僕は遊馬に兄様と凌牙をどう別れさせるか相談していただけです!」
「うぇ!? Ⅲ、俺達そんな相談してたのかよ!?」


明らかに驚く遊馬の反応を無視して、ⅣはⅢへとさらに詰め寄った。


「いいから帰るぞⅢ! 下らない相談なんか口実にするな!」
「嫌です! ファンサービスより凌牙を取る最近の兄様の行動には目に余るものがあります!」
「誰がいつ凌牙の為にファンサービスを蹴ったんだ!?」
「ここ最近ずっとです!」
「そんなわけあッ!? ――凌牙! 何のつもりだ!!」

後ろから羽交い絞めにしてきた凌牙へとⅣは振り返り睨みつけた。


「離せ凌牙! 俺とⅢを引き離す気か!!」
「周りを見てから言え」

周りからのザワザワとした話声が聞こえないのかと呆れたように凌牙は言いたくなった。
それでも、完全に頭に血が上っている状態なのか、片方が羽交い絞めにされてもなお兄弟喧嘩は続いた。



「兄様! また凌牙とデートしてたんですね!?」
「俺と凌牙の事は関係ないだろ!」
「関係あります!! 兄様は今日、ファンサービスに行く予定だったはずです!」
「そんなもん此処に来るために休んだに決まってんだろ!」
「『凌牙と会う為に』ですか!?」
「お前と遊馬がデートするのを阻止するためだ!」


「おい、Ⅳ。いい加減に――」
「なぁ……Ⅲ、そろそろ喧嘩は……」


平行線並みに話がかみ合わないⅢとⅣは、喧嘩を止めようとする凌牙と遊馬の前で暫くにらみ合った。



「どうしても、引く気はありませんか、兄様」
「ある訳ないだろ」
「――分かりました。ルールはタッグデュエルでいいですね」
「先攻はこっちが貰うからな」


唐突に穏やかに話し合いを始めたⅢとⅣ。
その唐突さに喧嘩は止めにしたのかと、遊馬は困惑し、凌牙は拘束していた手を緩めた。
一通りの確認が終わった後、Ⅲは笑顔で、Ⅳは真面目な顔で、それぞれ遊馬と凌牙へと振り返った。



「遊馬、僕と一緒に兄様達と戦ってくれるよね?」
「えっと……Ⅲ?」


「凌牙。――絶対にあいつらを倒すぞ」
「おい……Ⅳ?」



相手からの返事を待たず、ⅢとⅣはデュエルディスクを互いに取り出し、戦闘態勢に入っていた。



兄は心配性

「「デュエル!!」」


end
(2013/08/16)
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