凌Ⅳ

普段入る事もない店に入った遊馬はソワソワしながら目の前のⅢに質問した。

「なぁ、Ⅲ。本当にこんな高そうな所で食べていいのかよ?」
「今日は僕の方が勝手に呼び出したんだから、これぐらいはさせてよ、遊馬」

Ⅲはティーカップに紅茶を注いで遊馬に渡しながら笑顔で言った。
その言葉を聞いた遊馬は目を輝かせてケーキを注文した。



「で、相談て何だよⅢ?」

一つ目のケーキが来たところで遊馬は、自分用の紅茶を注いでいるⅢに訊いた。
遊馬からの言葉に一瞬表情を曇らせたⅢはティーポットを置いて切り出した。


「……最近、Ⅳ兄様が凌牙の所にばかり行って心配でしょうがないんだ」
「Ⅳがシャークの所に?」
「ここ数日は、あの兄様がファンサービスに行くより凌牙の所に行ってる」

ティーカップに砂糖を入れるⅢは思いつめた顔でため息を吐いた。
ケーキに齧り付いていた遊馬は、目を瞬かせて首を傾げた。

「シャークとⅣが仲いいのが心配なのかよ?」
「兄様がいつ凌牙の毒牙にかかるのかと思うと気が気じゃないんだよ、遊馬」
「毒牙って……」
「Ⅳ兄様も、どうしてあんな下心が見え見えの相手の所に行くんだろう」


砂糖を追加し続けるⅢの手元を見て、遊馬は顔を引き攣らせた。


「お、おいⅢ…砂糖、砂糖入れすぎ……」
「いつも身の危険に晒されてるのに、自分がしっかりしてるなんて考えてるから凌牙に付け込まれて……」

ため息を吐いて砂糖を入れるのを止めたⅢは、紅茶を混ぜ始めた。
ザリザリとカップの底に砂糖が溜まっている紅茶を混ぜるⅢは、その事に気付かずに言葉を続けた。


「口を開けばファンサービス、凌牙、凌牙、凌牙、凌牙、ファンサービス、ファンサービス……Ⅳ兄様がファンサービスを口にするのは兄様のモットーだし習慣だから慣れたけど、ファンサービスより凌牙の名前を出す方が多い所が余計に腹が立つんだよ」


混ぜる手を止め、苛立ちを紛らわすように紅茶を一気飲みしたⅢは、ふと遊馬を見て首を傾げた。



弟は過保護
「どうかした、遊馬?」
「とりあえず、Ⅲが紅茶の味に気付けないぐらいⅣの事心配してるのだけは凄く分かった……」


end
(2012/04/15)
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