凌Ⅳ

ニュースやCMを延々と流し続けるテレビが視界に入り、流れている内容に足を止めた。
隣にいたⅣは此方が足を止めた事に気付かず数歩先に進んでから、立ち止まり戻ってきた。

「急に立ち止まってどうかしたんですか?通行の邪魔になりますよ」
「Ⅳ」
「何ですか、凌牙?」
「どういう事だ」
「はぁ?」

指し示す先は、バレンタインに抽選に当たったファンにプレゼントを渡す説明をしているⅣの映像。
同じように映像を眺め、言いたい事を理解し納得したようにⅣは答えてきた。


「ファンサービスとして此方から渡せば、ファンからのプレゼントが減りますからねぇ」
「その為だけにイベントに出るのかよ」
「こう言う小さなことの積み重ねがファンの心を掴み、かつ此方にも迷惑がかからないんですよ」

会場もプレゼント代も、一切負担がかからないので予定に入れたと気軽にⅣは言った。

「なかなか見物でしたよ。何処のお菓子会社がスポンサーになるかで揉めて」
「性格が悪いな」

表面上では愛想よく笑いながら、揉めている連中を眺め腹の内で大笑いしているのが目に浮かぶ。


「ああ、ちなみに貴方の分はありませんよ。凌牙」
「…………」


呆れてものも言えない此方に、思い出したように言うⅣ。
あれだけ大量に何処にでもいるファンには渡すくせにかと言いたくなったが、止めた。

Ⅳの性格からして、此方が苛立つことを分かっていながら楽しんでやがる。
そんな奴の行動に一喜一憂する方が馬鹿だ。
こんな時は無視するのが一番良い。


「いるかよ」
「一番のファンは、特別扱いをしないとすぐに機嫌を悪くしますからねぇ」
「は?」
「まあ、バレンタインの当日は時間が取れませんけど」

前払いでよければあげますよ、と提案をするように言ったⅣは少し考えてから続けた。


「そうですねぇ……ベタな所で、プレゼントは私とでも言いましょうか?」

ニヤニヤとした笑みを口元に乗せてⅣは答えを待ってる。
そんな奴の策略に嵌りたくはない、嵌りたくはないが……

「さあ、どうですか?凌牙」
「………………いる」
「そんな小さな声だと聞こえませんよ。もう少し大きな声で言ってくれませんとね?」


分かってて言ってやがる。
一層に笑みを深めて馬鹿丁寧な言葉遣いで促してくるⅣ。
どうしてこんなに性格の悪い奴を好きになったんだと、自問したくなった。


「いるって言ってんだろ!!」


この根性悪!
「エクセレント! いやぁ、見事ですねぇ! 素晴らしいほどの自己主張!! そんなに欲しがっていたとは知りませんでしたよ、凌牙。だが、しかし。そこまではっきりと言われるのも嫌いじゃない。実にファンサービスのしがいがありますねぇ!!」
「黙れⅣ!!」

end
(2012/01/16)
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