凌Ⅳ

笑顔でファンへサインをするⅣを眺め、凌牙は苛立った。
軽く手を振りながらファン達を見送るⅣの隣で舌打ちをした。


「随分と愛想がいいんだな」
「愛想がいい? そんなもの、此方の方が受けがいいからに決まってるでしょう?」

あざ笑うように答えたⅣは顔を顰めている凌牙を眺めながら続けた。


「ああ、私があまりにも媚を売るように他人に接したのが気に食いませんでしたか?」
「お前のその面に騙される馬鹿が可哀想だと思ってただけだ」
「おやおや、すっかりと拗ねてしまいましたね。どうすれば機嫌が直るのでしょうか」
「勝手に言ってろ」

そっけなく返す凌牙を眺め、唐突に考えるそぶりをしたⅣは、ふと何かを思いついたような笑みを浮かべた。
微笑みともニヤニヤとした笑みとも言える表情のまま凌牙へと近づいた。
顔を近づけ息がかかりそうなほど近くで見つめてくるⅣに、凌牙は一歩後ろへと下がった。


「やはり、一番のファンを蔑ろにしてはいけませんねぇ?」
「お、い。何を……」
「外では誰が見るとも知れないので控えていたのですが、貴方の機嫌を直すためには仕方ありませんね」


頬に手を添え、ゆっくりと近づけてくるⅣに、反射的に凌牙は目を閉じた。



「で? キスされるとでも期待してるのかよ? 凌、牙、君」
「テメェッ、Ⅳ!!」
「ははっ! いいねぇその顔! 純情を踏みにじられた気分はどうだよ」


エセくさかった態度を取り払い大笑いをするⅣ。
癇に障る笑い声を立てるⅣに苛立った凌牙は、サイドに垂れている相手の髪を掴み、引き寄せた。

「なっ、凌…ッ!」


驚く相手を黙らせるように口を塞ぎ、掴んでいた髪を放すと、Ⅳはよろけながら後ろへと下がった。
口元を押えて顔を赤くするⅣを見て、どっちが純情だよと凌牙は笑った。



ざまあみろ
「そこら辺の奴らに写真撮られたらどうする積りだ、凌牙!!」
「先に仕掛けたのはそっちだろ」


end
(2011/12/29)
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