黒右京

◆居心地


肩を叩かれ、右京は文章を打っていた手を止め後ろを振り返った。

「長時間根を詰めすぎても完璧な物はできない。少し休んだ方がいい」

「あと少しで終わるから」

曖昧に笑いながら右京が言うと、相手は笑みを浮かべて口を開いた。

「半分以上が残っている物をあと少しで終わる? 〈私〉はバカではなかったはずだが、時間の考慮もできなかったのかな?」

目だけが笑っていない相手の反論しようも無い言葉。
言葉に詰った右京は、大人しく相手の差し出してくるコーヒーを受け取るしかなかった。
渡されたコーヒーは好みの味だった。
もっとも、元が同じなのだから好みが似ていても当たり前のことなのかもしれなかった。
けれど、とカップから口を離し、右京は同じようにコーヒーを飲んでいる相手を見て、もしかしたら、相手なりの自分への気遣いなのかもしれない、といまいち真偽が分からない中思った。


(11/08/15~08/21)
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