断片話

◆明里+右京


「よっしゃー!! 今からかっとビングタイムだぜ!」
「で、今日もまた連敗記録更新かよ?」

はしゃぎながら校庭近くまで出た遊馬を、ニヤニヤと笑いながら鉄男は水を差した。
その言葉にムッとしながら遊馬は反論した。

「今日は絶対勝つ!」
「でも遊馬。今日早く帰らないとって朝言ってなかった?」
「って、そうだった! 今日姉ちゃんに早く帰って来いって言われてたの忘れてた!!」

小鳥の言葉に予定を思い出した遊馬は時間を確認して、よしっ、と頷いた。

「今ならまだ間に合う! かっとビングだ俺!!」
「あっ、おい遊馬!?」
「そんなに急ぐと危ないよ遊馬!!」
「へーき、へーき! 心配しすぎなんだよ小と、り……は?」

振り返りながら走っていた遊馬は、自分の体がグラリと傾いた事に言葉を途切らせた。
下を見れば、外の階段に差し掛かっていたところだった。

「う、うわぁあああ!?」
「うぉ、あのバカ!!」
「遊馬!?」

叫ぶ鉄男と小鳥の目の前で、遊馬は階段を転がり落ちていった。

「う~、いってー……くない? あれ?」

階段から落ちたわりには痛くない体。
目を開けて周りを確かめると、何かを下敷きにしていた。

「せ、先生!!」

抱きとめるように自分と地面との間にいる右京に、遊馬は青ざめた。

「きゅ、救急車ぁ!?」



「どーしよぉ、姉ちゃん。やっぱり救急車呼んだ方が……」

痛む後頭部を押さえた右京に、遊馬は不安げに明里を見上げた。
そんな遊馬を前に、少し考え込んだ明里は意を決して申し出た。

「……ちょっと痛くなるかもしれないけど、良いですか先生?」
「はい?」
「失礼します」

断りを入れてから屈みこんだ明里は、右京の膝下と背中へと手をまわした。

「え、あの?」
「しっかり掴まっててください」

とっさに、言われたとおりに明里の肩へと手を置く右京は目を白黒させた。
何をするのか見守っていた遊馬達の目の前。
気合を入れた明里は右京を抱き上げ、そのまま車の方へと歩き出した。
右京を助手席へと下ろした明里は運転席へと座り込む途中、遊馬達へと振り返った。

「ちょっと先生を病院まで送ってくる! 遊馬! アンタはちゃんと家に帰ってるのよ!!」
「あの、そんな迷惑は――」

助手席からの困惑気味な声を無視して、車は発進した。

「すごーい……」
「お前の姉ちゃん凄いな」
「姉ちゃんスゲー……俺もいつか先生を抱き上げられるぐらいにないたいぜ!」

目をキラキラさせて言う遊馬に、鉄男と小鳥は呆れ顔になった。

「いや、そこじゃないだろ」
「もう、遊馬ったら」


(2011/07/17)
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