右京先生受け

交渉
(徳之助+等々力)


「……非常にまずいウラ」

丸眼鏡をかけた少年は苦い顔で呟いた。
少年の目の前にあるのは問題集データ。


「難しい問題を後回しにしたのがいけなかったウラ」

ここ最近、遊馬のカードを狙うため時間を割き根回しをしていた。
その報いが今になって返ってきたかと、宿題の問題集データを睨み少年は眉間にシワを寄せた。


「誰かに教えてもらうしかないウラか」

けれど誰に、と考え込んだ。

教えてもらうにしても、何かしらの代償は必要だ。
自分の手元にある物から考えなければいけないのかと、少年は懸命に頭を働かせた。



「カードを取引にするのは少し釣り合いが取れないウラ、残るは……」

机から取り出した紙をパラパラと眺め、一枚の紙に目を止めた。


暫く考え込んだ後、少年はにたりと笑った。




「徳之助君、こんな所に呼び出して僕に何の用ですか?」
「委員長に少し話があってウラ」
「出来れば手短に頼みます。僕はこれから先生の所へ行く予定だったんです。とどのつまり、あまり悠長に聞くつもりはありません」

やや不機嫌そうに言う等々力。
つんけんとしたその態度に臆する事もなく、徳之助は表面に浮かべた笑みをさらに強くして申し出た。


「宿題の答えを十問ほど教えて欲しいウラ」
「自分で解いてください。人に答えを教えてもらっていては勉強になりませんよ」


話は済んだとばかりに等々力は踵を返そうとした。



「……教えてくれたら、コレをあげるウラ」

神妙に言う徳之助は、手品のように一枚の紙を手に出した。
足を止め、胡散臭げに振り返った等々力は、徳之助が持っている紙へと視線を向けた。


次の瞬間に、等々力の目は限界まで見開いた。



「それはッ、右京先生の写真!?」
「委員長さえよければ貰ってくれウラ」
「と、とどのつまり、僕を買収する積りですか」
「ただの好意ウラ」


委員長が好意を寄せている人物の写真。

勿論、あの水を被らせた写真ではない。
こんな所で足がつくまねをするほど抜けてはいない積りだ。
準備段階のためしに撮った物だったが、こうまで役に立つとは思わなかった。

手に取り、食い入るように眺める等々力を前に、徳之助は交渉は成立したも同然だと思った。


「しかし、宿題の答え十問は……」
「五問だけでもいいウラ」
「…………わかりました。宿題の答えを五問教えればいいんですね」

譲歩された内容に安心し、写真を丁寧にハンカチで包み始める等々力。
その様子を眺めていた徳之助は、内心でほくそえんだ。


『ちょろいもんウラ』


end
(2011/06/04)
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