右京先生受け

授業中
(等々力×右京)


「この問題を、今日は後ろの席からで……」


続く名前を言わず、右京はため息をつく仕種をした。

一番後ろの窓側の席で突っ伏すように眠っている遊馬。
その隣で小鳥は遊馬の肩を揺らし始めた。


「遊馬、遊馬ってば!」
「う~ん、かっとびんぐだぜ、おれ~」

ムニャムニャと寝言が聞こえてきた所で等々力は後ろを振り返った。
周りでは何人かの生徒がクスクスと笑い声を零していた。
教壇から歩いてきた右京は若干諦め混じりに口を開いた。

「遊馬……」


ため息混じりに名前を呼ぶ右京に対し、後ろを振り向いていた等々力は一瞬眉を寄せた。
呼ぶだけ無駄です、と言いたくなる気持ちを抑え後ろの出来事を見続けることにした。

その内に、肩を揺らし続ける小鳥の呼びかけで遊馬は起きる。
そして、その後で右京は寝ぼけきった遊馬にもう一度質問をする。

いつもと変わらない授業中の出来事。



どうして起こそうとするのか。
授業を聞いていたくない生徒に構うのは時間の無駄でしかない。
今寝ている人物を起こしても、答えられないことは明白なはずなのに。

いっそ先生が教壇で一回だけ呼んで諦めれば、と考えながら等々力は若干冷めた目をした。


「もー! 起きなさいよ遊馬!」
「んあ? ……なんだよ小鳥?」
「遊馬」
「えっ、先生ッ?!」
「先生の声はそんなに眠くなる声かな? 遊馬」


軽く苦笑するように言う右京の言葉に、また笑いを零す生徒達。
そんな中、遊馬は苦笑いをしながら頭を掻いた。


「いや、えっと、そんな事は……」
「じゃあ、遊馬。問4の答えを言ってもらえるかな?」
「うえッ!? っと……わ、わかりません」

クラス中に起こる笑いの連鎖。
やっぱり、と思いながら等々力は視線を外して教科書の問題を確認した。


「委員長、遊馬の代わりに答えてくれるかな?」
「はい。問4は、x=-2だと思います」
「うん、正解だ」


笑いかけてくる右京。
それを見た瞬間、今までの苛立ちが嘘のように無くなっていった。

その後、遊馬へと注意をした右京は教壇へと戻っていった。
後ろから聞こえてくる話し声を聞き流し、等々力は右京を眺めながら考えた。

遊馬が起こした出来事を、間近で見た右京の笑顔1つで許せてしまう自分の思考。
その事から導き出される答えは――



『……とどのつまり、僕も意外と単純ですね』


end
(2011/08/19)
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