右京先生受け

忘れ物
(遊馬×右京)


水飲み場に畳んで置かれていた物に遊馬は目を瞬かせた。


「あれ? これ先生の眼鏡じゃん、何でこんなびしょ濡れ?」

黒縁の眼鏡を手に取った遊馬はポケットを探ってハンカチを取り出そうとした。
けれど、前のポケットにも後ろのポケットにも無い事に少し固まった。


「……今日忘れたんだった」

何で持ってこなかったんだと後悔してから、少し考えた末、服の裾で眼鏡を拭くことにした。
擦りすぎて傷をつけないように拭きながら、それにしても何で水飲み場に眼鏡があるのかと疑問に思った。


「よし! こんなもんかな?」

目の高さまで眼鏡を上げ確認すると細かい水滴は拭いきれていなかったが、
傷がついても困るので、これ以上拭くのは止めておいた。


細かい水滴が乾くまでの間眺めていると、不意に先生の眼鏡をかけてみたいと思った。



「……いやいや、何考えてんだよ俺」

自分の考えた事に乾いた笑いを零した遊馬は首を振って、ないないと考え直した。
でも少しだけ、と思い直した遊馬はすでに乾いた眼鏡を見つめなおし、その後すぐに首を振った。



その後、誰も通らない水飲み場の近くで葛藤し続けた遊馬は、結局理性の方が負けた。
本当に少しだけかけたらすぐ外す、と心の中で念を押しながら遊馬は黒縁の眼鏡をそっとかけてみた。



D・ゲイザー越しとも違うガラス一枚を挟んだ視界。
眼鏡がいらない人にはクラクラとして気持ち悪くなるらしいその視界は、
少しだけ違和感はあったが、そんなにクラクラとはしなかった。


かけていた眼鏡を外し、少ししょぼつく目を片手で擦った遊馬は首を傾げて呟いた。



「先生って、もしかしてそんなに目が悪くない?」



眼鏡を丁寧に畳んだ遊馬は、届けるついでに訊いてみようと思いながら、職員室へと走り出した。


end
(2011/08/14)
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