右京先生受け

置き傘
(等々力×右京)


配布用の冊子作りを早めに切り上げた等々力は、玄関の傘置き場で難しい顔でたたずんでいた。


「とどのつまり、濡れて帰るしかないと言うことですか……」


残っている傘が一本もないところを見ると、きっと誰かが使ったのだろう。
故意に持っていかれた返ってこない傘。
等々力はため息をついて探す事を諦めた。


「まったく、人の物を無断で使うなんて考えられませんよ」

苛立ちながら呟き、恨めしげに空を見上げた。
朝晴れていたのが嘘のような大雨。
だから油断をして傘を持って来ない人物が出たのだと、空にさえ文句を言いたくなった。



「どうしたのかな、委員長?」
「先生ッ」


いきなり声をかけられ後ろを振り向くと、右京が不思議そうに此方を見ていた。



「まだ玄関にいたから不思議に思ってね」

どうしたのかな、と問いかけるように訊いてくる右京に等々力は答えるべきか迷った。

傘を持っていかれたことに関しては、完全に持って行った人物に非がある。
けれど、まるで自分が失敗をしたように感じて言い出しづらかった。


黙り込んでしまった等々力を前に、右京は考えながら口を開いた。


「傘を忘れた、とか?」
「いえッ、持って来ました、けど……」
「誰かに持っていかれたのかな?」
「……はい」
「気にしなくてもいいよ、委員長。よくある事だから」


優しく言ってくる右京の言葉に余計に等々力は落ち込みそうになった。
よくある事、それすらも予想できなかった自分に対して自責の念にかられた。


「そうだ、委員長。よかったら使ってくれないかな?」


傘を渡そうとする右京に対し等々力は一瞬躊躇した。


「あの、でもそうすると先生が……」
「私は折り畳み傘を使うから大丈夫だよ」


笑いながら言う右京を前に、素直に受け取るしかなかった。



「ありがとうございます、先生……明日、必ず返します」
「うん。じゃあ、委員長。また明日」


鞄から小さな折り畳み傘を出しながら歩いていく右京。
その後ろ姿を見ながら、次からは絶対に予備の傘も用意しよう、と少し大きめの傘を手に持った等々力は思った。


end
(2011/08/03)
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