ロマレフ
「あー、その寝方ってけっこう後から腰にくるんだぞレフ~」
軽く仮眠をとろうとして本格的に寝てしまったのか。
それとも単に眠るつもりはあまりなかったのに眠りこけてしまったのか。
この時間帯ぐらいしか時間が空きそうにないという割とシビアな指定を少し遅刻したのが悪かったのか。
ソファーに横たわりスヤスヤと眠るレフ・ライノールを見下ろしロマニは困ったように頬を掻いた。
起こすべきか起こさないべきか優柔不断にもほどがある思考が一巡。
まあここはレフの腰のためにもベッドまで運んであげた方がいいのかな、たぶん?と結論付けるまで数分。
覚悟を決めて腕まくりをしながら相手に近づき。せーの!と心の中で声を出しながら抱き上げた。
「うわっ軽っ!? 不健康にもほどがあるんじゃないかなぁ!?」
背高だし古風な魔術師の服装フル装備だから絶対重いだろうと覚悟してたのにと驚愕し。
もしかしてキッチリと着込んでる服の下は骨と皮しかないような体?と別の意味でドキドキし。
あ、でもこういうシチュエーションは漫画とかで読んだことあるぞと場違いな思考が混線した。
「まるで羽根がはえてるみたいだ――って、待て待て! 人間がこんな猫みたいに軽いわけがない!」
混乱と疑問の声を上げれば、くぐもった笑い声が聞こえ。
手に伝わる振動から笑いの発生源が腕の中にいる人物なことにロマニは気付いた。
「起きてるだろレフ!」
「いや、すまないロマニ、君の善意を無下にしたくはなくてね」
「もー、ボクは覚悟を決めて持ち上げたのに実はキミが魔術で補助してるとかさー」
なさけないにも程があるじゃないかとしょぼくれながらもロマニはレフを降ろそうとはせず。
惰性としか言いようがないし、すでに意味はないと思うけどと前置きしながら相手をベッドまで運んだ。
「相変わらずモデルルームみたいに何もないんだね」
「あまり物欲はないたちだからね、物がない方が掃除も楽だろう?」
もっとも研究室だけは混沌としがちだがとレフは苦笑を零し。
ベッドに腰掛けながらロマニが持ってきた確認書類へと目を通し必要事項を書き加えてから返却した。
場所によって整理整頓に落差がありすぎるのは魔術師ゆえの生態かそれとも単にレフの癖なのか。
何度か見たことがあるレフの研究室を思い出し、書類を受け取りながらロマニは吹き出すように笑った。
「でも本当、ここまで何もないと普通なら自殺準備かと疑うレベルだよ」
「…………」
「ほら、私物とかって現在の生へ繋ぎ止めてくれる楔みたいな側面があるから」
まあキミの場合は前からこうだったし心配はないとは思うけどと軽口を叩き。
おっと時間も時間だったねと、とりとめのない話を切り上げたロマニは相手へと向き直った。
「それじゃあ、ボクはそろそろ戻るけど、今日は早めに寝た方がいいよレフ教授」
「おや? 君にしては珍しい忠告だね、ロマニ君」
「睡眠はとれる時にとっておいた方が健康のためだからね」
「実に医療部門のトップらしい格言だ。夜分遅くに約束を取り付けておきながら遅刻した者のセリフとはとても思えない」
「うわッ、やぶ蛇だった!」
じゃあまた明日、とやや引きつった笑みを浮かべながらロマニはレフの部屋から速足で退出し。
多忙というか色々と頼られてるレフ教授のメンタルケアに関しては少し注視が必要かもと頭の片隅に留め。
疲れた時は甘いものが一番だし、今度お茶にでも誘おうかなと軽く考えながら廊下を歩いた。
規則正しく時計が秒針を刻む中。
レフ・ライノールは先ほどのロマニとの会話を思い出し小さく息を吐いた。
「――私にとって繋ぎ止める楔は少ない方が良いんだよ、ロマニ」
end
(2026/01/22)
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