断片話
◆ifルート
(司千)
「で?お前との未来より科学をとった俺をどうする?」
何度問われても、何度懇願されても、科学を捨てる気はない。
挑発的に司へと先を促せば、剣の柄を持つ手が強く握りこまれた。
刃先が震えるほどに強く握った司は、そのまま剣を振り上げはせず。
千空の視線から顔を逸らすように俯いた。
「自分の命よりも科学をとるなんて、不合理だね」
「科学大好き少年を前にして、馬鹿なことを聞くなよ、司。
――科学を捨ててお前と生きるぐらいなら、科学と一緒に心中した方がましだ」
その場から一歩も動こうとしない司の代わりに足を前に進め。
相手の間合いへと容易く入った千空は、司を見上げた。
「殺したきゃ殺せよ。もうすぐ大樹が来るぞ」
あの大樹が、杠の助けを求めるような声に反応しない訳がない。
今はまだ足音すら聞こえないが、時間の問題だろう。
もっとも、その為の時間稼ぎをしようとは思わないが、と千空は内心で付け加えた。
「君は、よっぽどあの二人が大切なんだね」
「ついでに科学もな」
「自分の命よりも」
「ご託並べてる暇があるなら、一思いにさっさと殺せよ。司」
それとも、そんなに生身の人間を殺すのは嫌かと、司にだけ聞こえるように囁けば。
剣の震えは止まり、一気に天高く振り上げられた。
■
「千空……君を殺したくなかった。生身の人間を殺すのが嫌だった訳じゃない」
倒れ伏した相手へ、すでに聞こえるはずのない言葉を落とした司は剣を収め。
後方から聞こえる遅すぎるほどの足音へと振り返った。
息を切らせながら怒気もあらわに此方を睨む人物。
本当に、遅すぎるほどの登場にいっそ哀れに思うほどだった。
「うん。随分と遅かったね、もう全て終った後だよ。大樹」
大切な少女は髪を無残に切られ。
大切な友は無力にも地面へと横たわり。
今さら来た所で全てが遅いと伝えるように、司は口にした。
■
「君はそこの杠を守りながら、平穏に暮らすといい。
千空は自分の命と引き換えにしてでも君達が生きる事を望んでいたようだから」
だから見逃すのだと暗に言えば。
地に伏して呻く大樹へと駆け寄り介抱しようとしていた杠が体を震わせた。
既に抵抗する力すらない二人から視線を外した司は歩を進め。
火薬が尽き、焼け跡が燻るだけとなった場所の近くで力なく横たわる千空の体を抱き上げた。
まだ息はある。
意識を失わせただけなので当然かとひとりごち。
後方から聞こえる少女の声を聞き流しながら、悠々と司は歩き出した。
「君は分かっていたのかな、千空。俺が君を殺せるはずがないと」
そう確信していたのなら皮肉な程に正解だ、現に殺せなかった。
なら、これから先に行おうとしている事も想定の内だろうか。
どうあっても科学と共にあり続ける千空を眺め、司は微笑を浮かべた。
知識の実を根絶やせずに禁止するぐらいなら。
初めから他人の手に渡らない場所で管理すればいい。
もう誰にも会わせず、逃げる気力すら失わせるほどに犯して。
ずっと手元で――捕えておけばいい。
(2017/05/12)
(司千)
「で?お前との未来より科学をとった俺をどうする?」
何度問われても、何度懇願されても、科学を捨てる気はない。
挑発的に司へと先を促せば、剣の柄を持つ手が強く握りこまれた。
刃先が震えるほどに強く握った司は、そのまま剣を振り上げはせず。
千空の視線から顔を逸らすように俯いた。
「自分の命よりも科学をとるなんて、不合理だね」
「科学大好き少年を前にして、馬鹿なことを聞くなよ、司。
――科学を捨ててお前と生きるぐらいなら、科学と一緒に心中した方がましだ」
その場から一歩も動こうとしない司の代わりに足を前に進め。
相手の間合いへと容易く入った千空は、司を見上げた。
「殺したきゃ殺せよ。もうすぐ大樹が来るぞ」
あの大樹が、杠の助けを求めるような声に反応しない訳がない。
今はまだ足音すら聞こえないが、時間の問題だろう。
もっとも、その為の時間稼ぎをしようとは思わないが、と千空は内心で付け加えた。
「君は、よっぽどあの二人が大切なんだね」
「ついでに科学もな」
「自分の命よりも」
「ご託並べてる暇があるなら、一思いにさっさと殺せよ。司」
それとも、そんなに生身の人間を殺すのは嫌かと、司にだけ聞こえるように囁けば。
剣の震えは止まり、一気に天高く振り上げられた。
■
「千空……君を殺したくなかった。生身の人間を殺すのが嫌だった訳じゃない」
倒れ伏した相手へ、すでに聞こえるはずのない言葉を落とした司は剣を収め。
後方から聞こえる遅すぎるほどの足音へと振り返った。
息を切らせながら怒気もあらわに此方を睨む人物。
本当に、遅すぎるほどの登場にいっそ哀れに思うほどだった。
「うん。随分と遅かったね、もう全て終った後だよ。大樹」
大切な少女は髪を無残に切られ。
大切な友は無力にも地面へと横たわり。
今さら来た所で全てが遅いと伝えるように、司は口にした。
■
「君はそこの杠を守りながら、平穏に暮らすといい。
千空は自分の命と引き換えにしてでも君達が生きる事を望んでいたようだから」
だから見逃すのだと暗に言えば。
地に伏して呻く大樹へと駆け寄り介抱しようとしていた杠が体を震わせた。
既に抵抗する力すらない二人から視線を外した司は歩を進め。
火薬が尽き、焼け跡が燻るだけとなった場所の近くで力なく横たわる千空の体を抱き上げた。
まだ息はある。
意識を失わせただけなので当然かとひとりごち。
後方から聞こえる少女の声を聞き流しながら、悠々と司は歩き出した。
「君は分かっていたのかな、千空。俺が君を殺せるはずがないと」
そう確信していたのなら皮肉な程に正解だ、現に殺せなかった。
なら、これから先に行おうとしている事も想定の内だろうか。
どうあっても科学と共にあり続ける千空を眺め、司は微笑を浮かべた。
知識の実を根絶やせずに禁止するぐらいなら。
初めから他人の手に渡らない場所で管理すればいい。
もう誰にも会わせず、逃げる気力すら失わせるほどに犯して。
ずっと手元で――捕えておけばいい。
(2017/05/12)
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