萌語り:ハデ始

◆愚かしさ
(ハデ始)

天界にあるハデスの離宮には、ザクロの木があるとか。
そして、弟達はそれぞれ幼い頃に食べようとした事があったり。
ただ美味しそうに実っていたので、おやつ的な感覚で手にしようとしたが。

アダマスは、取れなかったことを長兄へと文句を言いに行き。
ポセイドンは、あの実はなんだと取れなかったことを問いに行き。
ゼウスは、何のためにあるか分からない木なんて切ったらどうだと提案しに行った。
弟達の様子にハデスは苦笑気味になだめるばかりで、誰にもザクロを手渡すことはなく。

幾星霜の時は流れ。
それでもまだ離宮にあるザクロはハデスだけの物で。
すでに弟達の誰もが木から果実を取ろうなどと考えなくなり。

長年ただ静寂を保つばかりの離宮にて。
地に落ちては割れて中身を零す果実の無意味さに。
老体のゼウスはまだ切っておらんかったのかと木を見上げ。
とうの昔に諦めてなお残しておく長兄に対し嘆息していたとか。

時はさらに流れ。
冥界の王が人の王と出会い賑やかな日々が常になった頃。
ハデスの離宮に遊びに来た始皇帝がふらっと城内散策をし。
中庭のような場所でザクロの木を発見するとか。

一方、散策からの迷子コンボで秒でいなくなった始皇帝をハデスは捜索中。
何故こういう時に限り壁をぶち破って移動しないのかと、迷子探しで離宮を歩き回り。
ようやく始皇帝を見つけた先は、ザクロの木がある場所で。

後ろで手を組みながら佇んでいた人間は、木を見上げ何を考えたものか。
落ちてきたザクロの実を一つ、手を伸ばして空中で掴み取り――

ザクロを食べようとした始皇帝をハデスは止めさせる。

口に含もうとした瞬間ザクロを持っていた手を神に掴まれ。
何をするものかと人が思う間もなく果実は地面へと落ち。

勿体ないであろうと苦言しようとすれば神に強く抱きしめられ。
ザクロを食したいのであれば後でいくらでも余が食べさせてやると言われ。
そういう問題ではないと言いたくなったが、何を言っても無駄そうな様子を前に。
神の琴線にでも何か触れたのかと意味が分からない始皇帝とか。

誰かがザクロを手にしてくれることを待ち望んでいた冥王の話。


(2022/04/03)
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