萌語り:ハデ始

◆王の道
(ハデ始)

モチーフ:オルフェウスの竪琴。

ペルセポネがいる並行世界に迷い込むハデスとか。
ポセイドンにはアムピトリテという妻がいて。
アダマスという次兄は元から存在せず。
ゼウスは戦闘よりも恋愛を好み。
人類存亡会議などなく。
ラグナロクが起こらない。
それこそが、『普通』だとする世界に。

概念の浸蝕。

世界は穏やかで光にあふれ。
違和感を覚える。

愛おしい存在の瞳に映る幸福。
違和感がある。

世界に対し、言いようのない嫌悪感が満ちていく。

徐々に違和を感じる頻度は増えていき。
ついにはペルセポネという存在すら冥界の王は拒絶する。
愛おしい、違う、唯一の、違う――これは余のモノではない。

不審、不快、不明、疑念、疑問、疑惑、疑心、嫌疑、嫌悪。
目に映るあらゆるものが忌々しい。

拒絶の果て。
なにもかもが無くなった場所にて、冥界の王はようやく怒りをおさめる。

その後。
随分と冥界の王を探していた始皇帝はようやく見つける。
迷子を捜すのは大変であったと、不敬にも軽口を叩きながら。
ハデスの手を引き歩き出す。

一寸先すら見えぬ、何もない暗闇の中。
進み続ける人の子へと、冥界の王は問う。

ハデスの言葉に始皇帝は振り返りもせず笑う。
分かっていない様子の冥界の王へと、人の子は教えてやる。

「朕の進む先、それすなわち――」

堂々と一歩踏み出すその先は、確かに続く道を征く。


(2021/12/06)
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