断片話

◆冷たき声
(ハデ始+ポセこじ)

ハデスが口にする声や言葉が冷たく嫌いだと言う始皇帝に対し。
同じような経験をしたことがある小次郎は、海神との事を思い出し。
苦笑いしか浮かばなかった。

さすが兄弟神とでも言うべきか。
そんな所まで似通うものかという所まで似ているらしい。

『確かに声だけは冷てぇんだよなあ……』

ただ、相手の顔を見てしまえば、そんな事も気にならなくはなるが。
声だけは何処までも深海のように冷え冷えとしている神の目にともる熱。
神が人に向けるべきではない激情、そんな熱を前にすれば些細ではあったと。
そこまで考えたところで、ふと気付く。

どれほど愛おしげな視線を神から向けられていようと。
知ることがなければ意味はないのかと。


『ああ、そうか――皇帝様は見えてねぇからか』

それなら嫌う理由もよくわかる。
相手の顔を見る事ができず、声だけでしか判断できないのであれば。
それは確かに、誤解しても仕方がない。

仮に真実を伝えたところで誰にも証明はできない。
全ては憶測であると断じられればそこで終わってしまう。

せめて声に熱がともればまだ違っていただろうが。
何故、神というものは肝心な所が抜けるのか。
なんとも難儀で難解な問題を前に、小次郎は思わず天を仰ぎたくなった。


(2021/12/03)
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