萌語り:ハデ始

◆髪長に言葉足らず
(ハデ始)

実は短髪なことを気にしてる始皇帝とか。
不要と判断し短くしたが、それはそれとして。
生きていた時代の倫理観はそう容易く抜けるものではなく。

古代中国の王が短髪である異様さ。
その事を理解できる呂布は、違和感は覚えるが何も言いはしないので。
他の者たちは始皇帝が短髪なことを不思議には思っていなかったり。

意外と人類代表達には長髪な者が多いと知り。
朕も髪を伸ばしてみようかと冗談交じりに始皇帝が言えば。

死後に四百数十年余を修行して歳を重ねた小次郎が、ふと自身の髪に触れ。
そういやあ、死んでから髪を切った覚えがねえなぁ、と思い出しながら口にし。
楽っちゃ楽だが、よく考えれば不思議なもんだと苦笑を零したので。

軽く希望を打ち砕かれ、少し残念に思う始皇帝。
全盛期の姿で固定された魂とは、そのようなものかと。
まあ、元より冗談半分ではあったが。

その後、とある日の夜。
ハデスが始皇帝の髪に対して愛おしいと示す出来事があり。
自分の短い髪もそう悪くはないと思うようになる始皇帝とか。


それか、始皇帝が髪を伸ばしてみたいと言っていたとアルヴィトが知り。
長髪の始皇帝を想像してポワッと赤面し、実際に見てみたいと思い立ち。
地毛の変化は、全盛期の姿で固定されている魂ゆえに難しいので。
天界産の高性能なエクステやウィッグを用意して始皇帝の所へ。

何やら頼み込んでくるアルヴィトの遊びに付き合う始皇帝。
はたから見れば、ままごとの様で微笑ましい光景。

戦乙女の手により、自然な仕上がりの長髪へと変わった始皇帝は。
どのような感じになっているのかの詳細は分かりはしないが。
自分が少し動けば長い髪の毛がサラサラと連動してきて楽しい。

普段とはまた少し違う始皇帝の姿を前にアルヴィトは見惚れ。
カメラ!カメラどこだっけ!?と急いで記録媒体を探しに出かけ。

アルヴィトが何処かへと行ってしまったので。
その間に、ハデスの所へと長髪を見せに行く始皇帝。
しかし、見せに行った先で、冥界の王から苦言を吐かれる。
何故、偽りを身につけているのかと。

長髪に思い入れがあった始皇帝にとってみれば、ハデスの言葉は耳が痛い。
――己の愚かさを見透かされたも同然ゆえに。

すぐにハデスの手によって付けていた髪は取り除かれ。
やはりこちらの方が良いと始皇帝の地毛に触れる冥界の王は楽しげで。
何故、始皇帝が嬉しげに長髪の姿を見せに来たのかを、知ろうともしない。

短髪へと戻された始皇帝は、神とは厳しいものだと笑う。
直後、アルヴィトが探し回っている声が聞こえてきたので。
神の手から逃れ、戦乙女の声がする方へと向かう。
長髪か否かなど、冥界の王にとって関係なかったとは知らずに。

記録媒体を手に部屋に戻ってみれば、始皇帝がいなかったので探し回ったアルヴィト。
少し席を外しただけでフラフラと何処かへ行った相手をようやく見つけたと思ったら。
いつの間にか始皇帝が元の髪型に戻っていたので驚く。
しかも付けていたウィッグも失くしたと聞いてさらにショックを受ける。

それなのに、全然反省の色がない始皇帝が。
「無問題(モーマンタイ)、朕には不要な物であった」と言うので。
つくづく我が道を行くタイプな人間に対し、もう!と怒るアルヴィト。

プリプリと怒るアルヴィトの機嫌をとりながら。
朕には不要な物であった、と再度思う始皇帝。
生前に大切にしていなかったものを偽りで再現し、喜ぶべきではなかったと。
ハデスの言うことも、もっともな事であると納得している。

ただ、少しばかり物悲しかっただけの話。


(2021/11/29)
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