萌語り:ハデ始

◆一夜物語
(ハデ始)

千夜一夜物語のようなハデ始とか。
ハデスがいつまでも読書をしていて詰まらず、始皇帝が遺憾の意を表し。
その後、本を読むのを止めてやる代わりに余を楽しませてみろと神に言われ。

では朕が詩(うた)を詠んでやろうと閃いた始皇帝とか。
元の言語による独特の音で紡がれる話は、まさしく歌のようで。
冥界の王に抱き寄せられるがままに膝の上へと座りこみ。
何の疑問もなく朗々と人の子は物語を詠うが。
別に神は本に代わる話を語れとは言っていない。

その事を勘違いしたまま無防備に身を預けていれば。
途中で違和感を覚えた時にはすでに遅く。

冥界の王の手が腹部に触れているだけで息を乱し始め。
ゾクゾクとしたものが身の内を駆け巡り。
すでに物語を口にすることすらできず。

続きは、また明日にでも聞いてやると神によって話は打ち切られ。
ハデスの相手をすることになる始皇帝。


(2021/11/24)
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