萌語り:ハデ始

◆別・我愛人
(ハデ始)

『我愛人』ネタの別解釈。

ハデスにはペルセポネがいると思ってる始皇帝とか。
だから、アレス達に向かいハデスの事を『私の旦那様』と言ってみた。

自分のではない、自分のものじゃない。
それでも冗談で言うぐらいなら許されるだろうと。

所詮は遊びだと、分かり切った上で関係をもっておいて。
いまさらに愛しいと伝えたところで何になるのか。

人の子が在りもしない女神に嫉妬してる事を知っているハデス。
勝手に地上界の神話から勘違いした始皇帝の方が悪いが。
それを訂正もせずにいる時点で性格が悪い。

そんな状況で、『我的愛人』だと始皇帝が主張した。
わざわざ他の誰のでもなく自分のであると強調しながら。
これが面白がらずにいられるものかと、冥界の王は喜んだ。

昼に言ったことを夜の褥にて蒸し返された始皇帝。
全てを見透かした上で面白がっているハデスに言えと強要される。
途中までは抵抗したが、人間ごときの抵抗など神はものともせず。
結局、ハデスの耳元で囁くように始皇帝は口にする。

「我的愛神」…我が愛しき旦那様。

滑稽だと自分ですら思う。
妻が他にいる相手に向かって言う言葉ではない。
いつもであれば、互いに踏み込まず冗談として終わる類いで。

何故、暴こうとするのか。
何故、嬉しそうにするのか。
それほどに人間を弄んで楽しいのか。

神に翻弄され遠くなる意識の中。
胸の内が痛むのは錯覚か、はたまた真に痛いのか。

その後。
二度と言うことはないと、人の子は心に刻む。


――と、いう感じのすれ違い話は。
回りまわって最終的にハデスが自業自得して。
暫く不機嫌でツンとしてる始皇帝を甘やかしまくる。
全面的にお前が悪いわい、と末弟のゼウスにまで言われる。

今までの反動並みに神に甘やかしまくられた始皇帝。
少しはこりた様子のハデスに、多少は機嫌を直し始め。

そんな折に、もうあの言葉は聞けないのかハデスに問われ。
残念がっている神がおかしくて腹がよじれるほどに笑い倒し。
直後、冥界の王に勢いよく抱き着いて、晴れやかに口にする。

「我的愛神!」…我が愛しき旦那様!



〈追記〉
ハデスが自業自得するまでの過程。

神に弄ばれたのでハデスの事を避けるようになる始皇帝。
少しからかっただけで始皇帝に避けられ不機嫌になるハデス。

『早めに謝った方がいいのでは?』とハデスに対して思うが。
『まあ、人間相手ですし?』とも思い、黙って事の顛末を傍観するヘルメス。
『やはりハデス様に馴れ馴れしすぎたことを反省したのだな!いいぞ人間よ!謙虚であれ!』
と、神々の離宮に来なくなった始皇帝に対し、事情も知らず神様らしく喜ぶアレス。

ハデスを避けに避けまくり、人類代表達の方に入り浸る始皇帝。
人類代表達の中には、平和的に対戦相手だった神と良縁を結んでいる者もいて羨ましく思う。
しかし、他の者達の神の中にも妻がいるものがいたはず?と問うてみれば。

地上界における神話は、人の手によって改変されていることが多い事を知る。
その筆頭が、多くの女神や人間に手を出してきたとされているゼウス他ギリシャの神々であると。

確かに、ハデスは妻がいるとは一言も言っていない。
勝手に決めつけ勘違いしたのは自分ではあるが。
冥界の王は楽しんでいた、訂正もしなかった。

事実にショックを受けた始皇帝は、今までの事がぐるぐると頭をめぐり。
気付けば治療室へと運ばれていて、精神的なものが原因だと診断され。
暫く安静に寝ているべきだと進言され、治療室のベッドで眠る。

ハデスに妻がいなかったことを喜ぶべきか。
否、あの神は本気などではなかった。

今から愛しいと伝えればいいのか。
否、所詮は神の遊びであった。

否、否、否――どの道、自分は誰かに必要とされることはない。

それだけが確かな事であり。
例え、まだ遊び足りない神が来ようと、関係はない。

己に触れようとしてくるハデスの手を拒絶する始皇帝。
嫌悪し抵抗する人間に対し、本当に愚かしくも愛おしいと思うハデス。
一人で泣くことすらできない人の子を傷つけた。
その傷を必死に隠そうとする姿は愛らしいが。
さすがにやり過ぎたかと思いもする。

その後、さんざんと人の子に罵られ抵抗され。
神を拒絶し逃げようとする相手を捕まえ、壊さないように抱きしめる冥界の王。
嫌いだと全身全霊で伝える始皇帝の言葉を受け止め。
余が悪かったと、人の子の怒りがおさまるまで宥める。

何故、はなそうとしない。
何故、逃がしてはくれない。
何故、いつまでも抱きしめている。

面倒な存在になればハデスも手放すと思っていた始皇帝は抵抗を止める。
いつまで経っても手放そうとしない神に対し、疑問すら覚える。
怒りは収まらない、渦巻く感情も整理できず残ったまま。
けれど、それ以上に相手の様子が気になった。
嫌いではあるが、愛おしいのは確かで。
もし、仮に、と頭の中に都合がいい仮定が浮かんでは消える。

嵐のような拒絶と嫌悪の言葉が止んだ後。
腕の中におさめた人間が、ポツリと零した質問は。
人の心というものを理解していなかった神を動かすには十分で。
愛しい存在へと冥界の王は初めて愛を伝える。

後日。
また神々の離宮に堂々と来てハデスを待つ始皇帝に対し。
やはり人間は謙虚さなど持たんのか!とアレスは頭を掻きむしりたくなり。
おやおや、と事の顛末を知りヘルメスは朗らかな笑みを浮かべる。


(2021/11/15)
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