萌語り

◆復活する怪談
(圓鏡)

顔半分を失くした圓潮、鵺の噺の結末を風の便りで知り、そんなものかと和書に書き記して終い。
奴良組に警戒されていることもあり、当分は表舞台に立つ気はない。
そんな中、噺を広めたわけでもないのに1つの都市伝説が復活していることに気付く。
目立って広がっているわけではないが、確実に目撃情報も上がっている点を疑問に思う。
半信半疑ではなく、どこか確信にも似た感覚で事実を確かめに行く。
地下鉄の車両内。
先ほどまで誰も座っていなかった席にいつの間にか座っていた少女に近づく圓潮。
今までこんな行動をする人を見た事が無く、不思議そうに目を丸くして見上げてくる少女。


「……見えるのぉ?」
「嗚呼、見えてるよ」
こんな芸当が出来るのはただ一人しかいない。
生を受けている作品を眺め、圓潮は口元に笑みを浮かべた。
「さて、案内してもらおうかネェ? お前さんの〈産み〉の親に」


電車は存在するはずのない地下の駅へ。
案内すると言うよりは逃げているに近い少女の後をついていく圓潮。
コインロッカーが一面にある場所ではなく、ひっそりとした一角へ進む少女。
その先で待ち受けるのはもう一つの怪談。


「危ないもんだ」
問答無用の大鋏での攻撃を避け、襲い掛かった相手を確認する。
今にも舌打ちをしそうなほど不機嫌な、包帯を顔中に巻いた男。
外見、凶悪性、その全てを語った事がある怪談。
「〈切裂とおりゃんせの怪人〉かい?」


題名としての名前はあるが、その妖怪そのものを指す名前のない妖怪。
言霊で縛る事もできない相手の攻撃を避ける圓潮。
あと一歩で首と胴を切り離される手前で止まる大鋏。
怪人の行動を制するのは鞭。
きつく怪人の腕を拘束する鞭の先を持つのは鏡斎。


「此奴は名前で縛れない……あんたなら、知ってたはずだろ。圓潮」
どうやって生き延びたのか、なぜ此処にいるのか。
そんなモノを訊くことは無粋でしかない。
此方を助けたとも言える人物に、圓潮は自然と口を開いた。
「ようやく会えたネ、鏡斎」



(2013/02/04)
16/31ページ