柳鏡

「結局、柳田は来なかったネェ」

七夕の片付けをする中、指示を出していた圓潮は思い出したかのように呟いた。


「噺集めに遠出してるからだろ」

雷電達に片付けをまかせ、さぼっていた鏡斎は圓潮の呟きに対して答えた。

「それでも、全員で集まった方が楽しいだろう?」
「人数は十分いた。毎年やってれば一回ぐらい来なくても別にいい」

今年がなくても来年。
何百回とやっていれば一回ぐらい。
むしろ、毎年のように人数が増減する中、皆勤賞のように来る方が珍しい。


「その割には、短冊に願ってたネェ」
「……人の短冊読むなよ」

内容を知っているかのように笑う圓潮。
悪趣味だと睨めば、これは失礼とばかりに笑っていた口元は扇で隠された。


「七夕の短冊なんてのは、人目に触れる事を前提で書かない方が悪いよ」
「名前は書かなかった」
「文字を見れば誰が書いたかぐらい分かるもんだ」


いったい何百年顔を突き合わせているのかと、食えない調子で圓潮はさらに笑った。



「残念だったネェ、願いが叶わなくて」
「……叶わない事の方が多いだろ」


あれは単なる暇つぶしだ。
思い付くものがなかったから書いただけの願いだ、深い意味はない。
そう返したかったが、そこまで断言をすると逆に面白がられそうで止めた。



「そうかい? まあ、後で柳田が喜ぶだろうから、お前さんの短冊は残して渡しておくよ」


薄緑色の短冊を一枚懐から出し、ひらひらと見せる圓潮。
いかにも親切心の塊ですとばかりに言われた言葉に、思わず鞭を取り出し、短冊を狙った。



短冊の始末
「おや、危ないネェ」
「……柳田サンに見せるぐらいなら、今この場で消す」


end
(2013/07/08)
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