断片話

◆引き続き
(リク鏡)

「ぜったいありゃ異常だよなぁー」
「本当本当」
「お! 今度は別のを描き始めた!!」

キャーキャー言いながら障子の向こうを覗きこむ納豆小僧達。
廊下を通りかかったリクオはその様子に少し足を止めた。

「おお! すげー!! 今度は猫又だ!」
「こっち来るぞー!!」

ワーッ、と叫びながら一斉に離れる小妖怪たち。
開け放ってあった入口から飛び出てくる巨大な猫又。
突進してくる勢いで向かってくる猫又に対し、リクオは受け止めて喉元を撫でた。
ゴロゴロと満足気な低い音を立て消えていく猫又。
軽くため息をついてから、部屋の中にいる人物へと目を向けた。

「鏡斎。あんまり皆を驚かせないでよ」
「……昼のリクオか」

胡乱気に一瞥をした後、興味を失ったように鏡斎はまた絵に取り掛かった。

「ねぇ、僕の話ちゃんと聞いてる?」
「…………」
「もう夜に来なくてもいい?」

ピタリと筆が止まり、今度はまともに相手は顔を向けてきた。

「夜の姿が見れなくなるのは困る」
「じゃあ、もう少し僕の話を聞いてよ。騒がしいかもしれないけど、あんまり組の妖怪を苛めないで」
「……守ってただろ?」
「さっきの猫又は?」
「絵を描くのに邪魔そうだったから追い払うため……」
「襲わせようとしてたよね?」

何が悪いのかと言いたげな鏡斎に確認するように、ことさらゆっくりと訊いた。
沈黙を返す鏡斎に対し、リクオはため息を吐いた。

この気難しい画師は、自分の立場を分かっていない。
ただ絵の事を……夜のリクオの事だけを考え続ける。
その事が、何故か歯がゆく感じた。


(2011/11/12)
2/98ページ