柳鏡

「鏡斎にも蒐集癖があるの哉?」

素朴な疑問を口にした柳田は、青蛙亭の廊下で一人考え込んだ。
鏡斎が〈産んだ〉妖怪は蒐集癖を持っているのが多い。
子は親に似る、と言われるぐらいなのでおそらくあるとは思うが、対象物が思いつかなかった。

「鏡斎が執着する物か……しいて言うなら」

ブツブツと呟きながら歩いていると後ろから急に声がかかった。

「柳田サン、そこ退いてくれ」
「ああ、ごめん鏡斎…………その荷物は何哉?」

前が見えないほどに詰みあがった白い山。
運んでいた鏡斎は、ほぼ柳田の顔が見えない状態で答えを返してきた。


「紙」
「……ボクも半分持とうか?」
「いや、後もう一つあるからそれ持ってきてくれ」
「分かったよ。……そう言えば、鏡斎。この前も何か運んでなかった哉?」
「この前のは墨」
「その前の時に運んでたのは?」
「筆」
「圓潮師匠が前に、青蛙亭が君のせいで倉庫になりかかってるって言ってたけど」
「……多いに越した事はないだろ?」


至極当然の様に言った鏡斎は、前が見えないほどの紙の束を持って行った。
鏡斎に頼まれた残りの紙を取りに行きながら、柳田は疑問が解決した。


蒐集癖
「鏡斎の蒐集対象は、画材哉」


end
(2012/11/10)
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