小話
2013/01/05
【猫なで声】
「鏡斎、そんなに悔しがらなくてもいいだろう?」
「……あんたは狡い」
反則級に狡い、と鏡斎は猫を独占する圓潮を睨んだ。
「ちょっと鳴き声の真似をしただけだよ」
「会話ができるのを真似とは言わない」
end
------
1/15
【欠陥】
「お前さんは、随分と欠けて産まれてきたんだネェ?」
腕を切り落とされても涼やかな顔でいる相手に訊いた。
濁った色の眼を向けられるが、それが本当に景色を映しているのかは疑問だった。
生きるのに必要な欲が希薄な思考と、痛覚のない体。
それでよく生きていられるものだと思った。
end
------
1/27
【お茶】
「覇者の茶を飲ませて支配することも、今となっては勿体ないからネェ」
それにしても面倒だと既にいた都市伝説の妖を潰した後、愚痴る様に圓潮は言った。
ここ数十年、もとい、江戸時代以降の茶のできる量を思い出し鏡斎は首を傾げた。
「……かなり前に集めた茶を飲ませて無事でいられるのか?」
「たしかに。腹を下しても不思議じゃないが、別にあたし達が飲む訳じゃないからね」
そもそも、茶を使ってまで支配したい都市伝説は今のところない。
仮にいたとしても、腹を下したら下したで、そのまま茶の食中毒で死んでも構わない。
「まったく、今はお前さんに産んでもらうのが一番早いネェ?」
end
------
2/14
【ギブ・ミー・チョコ】
「鏡斎、今日はバレンタインだね」
「……柳田サン、此処に菓子類があると思うのか?」
「うん。無い事は百も承知の上哉」
夢ぐらい見てもいいじゃないか、と何十年となく同じ事を繰り返した柳田は泣きながら言った。
end
【黒い液体】
渋い顔で圓潮は悲惨な室内を見渡した。
「雷電の頭が多少アレな事は知ってたけどネェ?」
まさかこれほど酷いとは思わなかったと言葉を濁した。
雷電にかけられた墨を拭っていた鏡斎は真顔で呟いた。
「墨を一気飲みするとは思わなかった」
end
【手軽すぎる】
「柳田サン。渡しておいてくれたか」
「ああ、君が珍しく届け物をしてくれって言っていたのなら、ちゃんと渡したよ」
笑顔で返す柳田に、そうかとだけ鏡斎は呟いた。
「そう言えば、あの中身は何だったの哉?」
「刻んだ板チョコ」
「初めて他の怪談を可哀想だと思った哉」
end
【贈物】
「今日が何の日か、お前さんは知ってるかい?」
「……洋菓子食べ放題の日」
箱を開けながら答える鏡斎。
あながち間違いでもないが、と思いながら圓潮はその様子を眺め続けた。
「鏡斎。それはあたし宛ての物なんだけどネェ」
「オレもあんたも〈山ン本さん〉だろ?」
「屁理屈をこねない」
end
------
2/17
【エゴイズム】
「君の作品なら、変わらずに畏れを集め続けてるよ」
作品の事は訊かないで欲しかった。
そうすれば、嘘を吐かなくて済んだのに。
「じゃあ、ボクはまた噺を集めにいくから」
先ほどの言葉は、半分以上は嘘だ。
それでも、鏡斎に噺の結末は伝えたくはなかった。
end
------
2/18
【嘘ばかり】
「……嘘つきだな、柳田サンは」
出て行った柳田に対し、鏡斎は呟いた。
変わらずに畏れを集め続けている、そんな事ある訳がない。
「知る手段なら、いくらでもあるに決まってるだろ」
消えたことを知らせなかったのは優しさゆえか。
それでも、いらない気遣いだと思った。
end
------
2/20
【もぬけの殻】
「また、汚くなってるね……」
壮絶に散らかった部屋を見渡しながら柳田は呟いた。
「此処までくるといっそ見事だよ、鏡斎」
家の主がいなくなった家の中、静かに泣くしかなかった。
「せめて一週間は持って欲しかった哉ッ…!」
end
【ローテーション】
「圓潮師匠。鏡斎は今どこにいますか」
「あ? また家を全滅させたのかい? 心配しなくても、綺麗にしておけばその内に戻るだろう?」
「いえ、鏡斎が行った先をまた掃除しないといけないので」
「あぁ、一度流れが乱れると掃除が大変だからネェ」
end
------
2/22
【猫の日】
「鏡斎、ボクの為に猫耳を付けてくれたのは嬉しいよ、嬉しいけど――」
言葉を区切った柳田は、たまに動く鏡斎の猫耳を再度眺めてから叫んだ。
「そこまでリアルにしなくてもいいんじゃない哉!?」
「……猫耳が流行じゃないのか?」
「何も本当に生やさなくてもいいんだよ、鏡斎!!」
end
------
3/15
【白い日の翌日】
「昨日は鏡斎からお返しは貰えたのかい?」
「圓潮師匠。ボクは昨日まで遠い地方に行っていたので、鏡斎からは貰えませんでした」
「その言葉、毎年のように言ってるネェ」
淡い期待を絶やさない柳田に対し、いっそ清々しいほどだと圓潮は感心した。
end
------
5/12
【母の日】
柳田が山ン本宛てに白いカーネーションを用意しているのを恒例行事のように眺め。
圓潮と鏡斎は自分たちの手元にある赤いカーネーションの花束へと視線を落とした。
「せめて父の日に何か貰いたかったネェ」
「……まったくだな」
怪談妖怪一同からの贈り物に、ため息しか出なかった。
end
------
6/16
【父の日】
「怪談妖怪達にとっては柳田を父の日に祝うのが妥当だと思ったんだろうネェ」
「……納得いかない」
怪談の様子見後、満身創痍で帰ってきた自分を見て理不尽な事を言う圓潮達に対し、柳田は肩を震わせた。
「この状況を見て羨ましがられる方が納得がいかない哉!」
end
------
8/10
【猛暑日】
「今日は描かないのかい?」
「……こうも暑いとやる気が起きん」
「まぁ、35℃越えの室内にいたらそうなるだろうネェ」
「何か涼しくなるもんはないのか、圓潮?」
「涼しくなるものネェ? ――ちょうど新作の噺があるが、聞くかい?」
「……もっと物理的に涼しくなる方法で頼む」
end
------
8/17
【ほん怖】
「夏の風物詩だネェ」
「……納得いかない。これがあの噺なのか?」
「鏡斎。人が再現する映像にいちゃもんをつけない」
「せっかく鏡斎が産んだ妖なのに、これじゃ怖さが半減哉」
「柳田。不満も程々にしときなさい」
もう少し寛大な心で見なさい、と圓潮はため息を吐いた。
end
------
8/24
【褐色】
「随分と派手な包帯をしてるネ」
「……寝惚けた雷電に食い物と間違われて噛み付かれた」
「黒糖饅頭にでも間違われたのかい?」
「手羽先のから揚げ。噛み付いた後に賞味切れかよとか言いやがった」
「筋張って硬かったのかネェ?」
end
------
9/19
【月見】
「柳田の間の悪さは天才的だネェ」
「今年も駄目だったか、柳田サン」
「いっそ此処までくると芸術的だ」
行事の欠席率を更新し続ける柳田。
何故こうまで間が悪いものか。
黙々と月見団子を食べながら、圓潮と鏡斎は不思議がった。
「大掃除とかの行事には、毎回出てるのにネェ?」
「……楽しめる行事だけ毎回来ないな」
「きっと明日になれば帰ってくるんだろうネ」
「今回、何処に行ってるんだ?柳田サンは」
「確か――」
圓潮が考え込んでいる間に、最後の団子へと鏡斎は手を伸ばした。
それより先に団子を取った圓潮は、笑顔で答えた。
「××村だったよ」
「……そうか」
end
------
11/9
【占い】
「……誕生日や血液型で性格を言い当てる本はつまらんな、柳田サン」
「そう哉?」
「オレも圓潮も雷電も、他の山ン本達も、全部同じ結果になると思うとな」
「そう言われると言葉に詰まる哉」
end
------
11/10
【検証禁止】
「圓潮、コーラで骨が溶ける噂があるよな?」
「あぁ、都市伝説であるが、それがどうかしたかい?」
「……雷電も噂通りに溶けるのか、気になってな」
「冗談でも検証は止めておきなさい」
「少し試すだけだ」
「残念な弱点が出来てたらどうするつもりだい」
end
------
11/11
【ポッキーの日】
「美味そうなの食ってるな鏡斎!」
チョコレート菓子を食べる鏡斎へと雷電は近づき、屈託なく要求した。
「半分くれ!」
「……半分か?」
「おう!」
半分くれ、と手を出しながら笑顔で言う雷電。
暫く黙りこんだ鏡斎は、袋から1本取り出し、パキッと半分に手折った。
そのまま、あまりチョコのかかってない方を雷電へと向けた。
「鏡斎……半分かこれ?」
「半分だろ?」
何か違ったかと真顔で聞き返す鏡斎に、首を傾げながらも雷電は受け取った。
1本の短い菓子を眺め、再度鏡斎へと聞いた。
「半分、だよな?」
「きっちり半分だ」
end
------
12/16
【即答】
「鏡斎、クリスマスに何か欲しいものはあるかい?」
「……新しい和紙の束と墨と筆一式」
「お前さんは容赦なく高いのを複数ねだるネェ」
何万円かかるのかと、頭が痛くなりながら圓潮はため息を吐いた。
end
------
2014/01/01
【餅つき】
「最近は餅つきが楽になったネェ」
「本当ですね、圓潮師匠」
「……命がけで返し手入れる必要ないからな」
機械の中でペタペタと白い餅が出来るのを待つ中。
一昔前までの雷電との餅つきを思い出し、三人は揃ってため息を吐いた。
end
【獅子舞】
「……圓潮。返り血で顔が赤くなった獅子が、各家を練り歩いて人を食い殺してく噺流さないか?」
「正月限定になりそうな噺でなければ、考えたかもしれないネェ」
end
------
3/13
【問題なし】
「鏡斎、常日頃から隙さえあれば拉致監禁を実行しようとする、愛情表現がもれなく残虐な方向に行く君の事が大好きすぎる作品について、君はどう思ってるの哉」
「柳田サン……そう言う洒落にならない部分も含めて好きに決まってるだろ」
「真剣な目で言う君が怖いよ、鏡斎」
end
------
3/15
【わがまま】
「圓潮、あの噺を語ってくれ」
「語る何も、昼間に客として聞いてただろう?」
客席で見かけた時は、珍しい事もあるものだと思った。
「大衆に向けられたあんたの声じゃ、オレは満足できん」
「お前さんは欲張りだネェ」
end
------
4/8
【筋肉】
「聞いてくれよ圓潮! 鏡斎が寝惚けてオレの体に描きそうになった!!」
「珍しいネェ、鏡斎が紙と人の体を間違えるなんて」
「しかも一筆入れて折り目つきかよとか言って止めたんだけどよ! あれって悪口か!?」
「新品の和紙にとっては悪口だと思うよ」
end
------
2015/02/12
【妖怪酒の効力】
「あたしらも、妖怪だったんだネェ……」
近頃、人のような生活を送っていたため忘れがちだったが、と付け加え。
転がる酒瓶を一本拾い上げ、圓潮は感心したように息を吐いた。
いつもならばまだ宴は中盤もいいところの時間帯。
わざと遅れてくれば、半壊状態の宴会場と酔い潰れた山ン本達の山。
「まさか数本で潰れるとは思わなかったよ」
酒代が安くあがったと見るべきか、後始末が大変だと見るべきか。
とりあえず、たんなる悪ふざけだったとはとても言えそうにない。
超強力な妖怪酒『妖殺し』
酒瓶に書かれた銘柄と部屋の惨状を見比べ、二度はやるまいと密かに誓った。
end
------
10/25
【〇〇期】
「思春期なんか永遠に来なければいいのにな」
「鏡斎、地下鉄の少女にちょっと避けられただけでそんなに落ち込まなくても」
「柳田サン。あれはその内にオレの事なんか顔も見たくないとか言い出すぜ……」
「元の娘が中学生だから、避けて通れない道じゃない哉」
「そういえば前にもあったな。オレの事を避けてたくせに、いきなりオレの腕を切ろうとした思春期のやつが」
「それは反抗期じゃない哉、鏡斎」
end
------
12/28
【鏡斎3秒クッキング】
材料:和紙…1枚、墨…適量
1.食べたい料理の絵を描く。
2.絵が実体化するのを待つ。
3.完成。
「確かにスゲェうまいけどよぉ!」
「誰にもまねできない哉」
「反則級だネェ」
「……食えればいいだろ」
end
【猫なで声】
「鏡斎、そんなに悔しがらなくてもいいだろう?」
「……あんたは狡い」
反則級に狡い、と鏡斎は猫を独占する圓潮を睨んだ。
「ちょっと鳴き声の真似をしただけだよ」
「会話ができるのを真似とは言わない」
end
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1/15
【欠陥】
「お前さんは、随分と欠けて産まれてきたんだネェ?」
腕を切り落とされても涼やかな顔でいる相手に訊いた。
濁った色の眼を向けられるが、それが本当に景色を映しているのかは疑問だった。
生きるのに必要な欲が希薄な思考と、痛覚のない体。
それでよく生きていられるものだと思った。
end
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1/27
【お茶】
「覇者の茶を飲ませて支配することも、今となっては勿体ないからネェ」
それにしても面倒だと既にいた都市伝説の妖を潰した後、愚痴る様に圓潮は言った。
ここ数十年、もとい、江戸時代以降の茶のできる量を思い出し鏡斎は首を傾げた。
「……かなり前に集めた茶を飲ませて無事でいられるのか?」
「たしかに。腹を下しても不思議じゃないが、別にあたし達が飲む訳じゃないからね」
そもそも、茶を使ってまで支配したい都市伝説は今のところない。
仮にいたとしても、腹を下したら下したで、そのまま茶の食中毒で死んでも構わない。
「まったく、今はお前さんに産んでもらうのが一番早いネェ?」
end
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2/14
【ギブ・ミー・チョコ】
「鏡斎、今日はバレンタインだね」
「……柳田サン、此処に菓子類があると思うのか?」
「うん。無い事は百も承知の上哉」
夢ぐらい見てもいいじゃないか、と何十年となく同じ事を繰り返した柳田は泣きながら言った。
end
【黒い液体】
渋い顔で圓潮は悲惨な室内を見渡した。
「雷電の頭が多少アレな事は知ってたけどネェ?」
まさかこれほど酷いとは思わなかったと言葉を濁した。
雷電にかけられた墨を拭っていた鏡斎は真顔で呟いた。
「墨を一気飲みするとは思わなかった」
end
【手軽すぎる】
「柳田サン。渡しておいてくれたか」
「ああ、君が珍しく届け物をしてくれって言っていたのなら、ちゃんと渡したよ」
笑顔で返す柳田に、そうかとだけ鏡斎は呟いた。
「そう言えば、あの中身は何だったの哉?」
「刻んだ板チョコ」
「初めて他の怪談を可哀想だと思った哉」
end
【贈物】
「今日が何の日か、お前さんは知ってるかい?」
「……洋菓子食べ放題の日」
箱を開けながら答える鏡斎。
あながち間違いでもないが、と思いながら圓潮はその様子を眺め続けた。
「鏡斎。それはあたし宛ての物なんだけどネェ」
「オレもあんたも〈山ン本さん〉だろ?」
「屁理屈をこねない」
end
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2/17
【エゴイズム】
「君の作品なら、変わらずに畏れを集め続けてるよ」
作品の事は訊かないで欲しかった。
そうすれば、嘘を吐かなくて済んだのに。
「じゃあ、ボクはまた噺を集めにいくから」
先ほどの言葉は、半分以上は嘘だ。
それでも、鏡斎に噺の結末は伝えたくはなかった。
end
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2/18
【嘘ばかり】
「……嘘つきだな、柳田サンは」
出て行った柳田に対し、鏡斎は呟いた。
変わらずに畏れを集め続けている、そんな事ある訳がない。
「知る手段なら、いくらでもあるに決まってるだろ」
消えたことを知らせなかったのは優しさゆえか。
それでも、いらない気遣いだと思った。
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2/20
【もぬけの殻】
「また、汚くなってるね……」
壮絶に散らかった部屋を見渡しながら柳田は呟いた。
「此処までくるといっそ見事だよ、鏡斎」
家の主がいなくなった家の中、静かに泣くしかなかった。
「せめて一週間は持って欲しかった哉ッ…!」
end
【ローテーション】
「圓潮師匠。鏡斎は今どこにいますか」
「あ? また家を全滅させたのかい? 心配しなくても、綺麗にしておけばその内に戻るだろう?」
「いえ、鏡斎が行った先をまた掃除しないといけないので」
「あぁ、一度流れが乱れると掃除が大変だからネェ」
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2/22
【猫の日】
「鏡斎、ボクの為に猫耳を付けてくれたのは嬉しいよ、嬉しいけど――」
言葉を区切った柳田は、たまに動く鏡斎の猫耳を再度眺めてから叫んだ。
「そこまでリアルにしなくてもいいんじゃない哉!?」
「……猫耳が流行じゃないのか?」
「何も本当に生やさなくてもいいんだよ、鏡斎!!」
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3/15
【白い日の翌日】
「昨日は鏡斎からお返しは貰えたのかい?」
「圓潮師匠。ボクは昨日まで遠い地方に行っていたので、鏡斎からは貰えませんでした」
「その言葉、毎年のように言ってるネェ」
淡い期待を絶やさない柳田に対し、いっそ清々しいほどだと圓潮は感心した。
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5/12
【母の日】
柳田が山ン本宛てに白いカーネーションを用意しているのを恒例行事のように眺め。
圓潮と鏡斎は自分たちの手元にある赤いカーネーションの花束へと視線を落とした。
「せめて父の日に何か貰いたかったネェ」
「……まったくだな」
怪談妖怪一同からの贈り物に、ため息しか出なかった。
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6/16
【父の日】
「怪談妖怪達にとっては柳田を父の日に祝うのが妥当だと思ったんだろうネェ」
「……納得いかない」
怪談の様子見後、満身創痍で帰ってきた自分を見て理不尽な事を言う圓潮達に対し、柳田は肩を震わせた。
「この状況を見て羨ましがられる方が納得がいかない哉!」
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8/10
【猛暑日】
「今日は描かないのかい?」
「……こうも暑いとやる気が起きん」
「まぁ、35℃越えの室内にいたらそうなるだろうネェ」
「何か涼しくなるもんはないのか、圓潮?」
「涼しくなるものネェ? ――ちょうど新作の噺があるが、聞くかい?」
「……もっと物理的に涼しくなる方法で頼む」
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8/17
【ほん怖】
「夏の風物詩だネェ」
「……納得いかない。これがあの噺なのか?」
「鏡斎。人が再現する映像にいちゃもんをつけない」
「せっかく鏡斎が産んだ妖なのに、これじゃ怖さが半減哉」
「柳田。不満も程々にしときなさい」
もう少し寛大な心で見なさい、と圓潮はため息を吐いた。
end
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8/24
【褐色】
「随分と派手な包帯をしてるネ」
「……寝惚けた雷電に食い物と間違われて噛み付かれた」
「黒糖饅頭にでも間違われたのかい?」
「手羽先のから揚げ。噛み付いた後に賞味切れかよとか言いやがった」
「筋張って硬かったのかネェ?」
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9/19
【月見】
「柳田の間の悪さは天才的だネェ」
「今年も駄目だったか、柳田サン」
「いっそ此処までくると芸術的だ」
行事の欠席率を更新し続ける柳田。
何故こうまで間が悪いものか。
黙々と月見団子を食べながら、圓潮と鏡斎は不思議がった。
「大掃除とかの行事には、毎回出てるのにネェ?」
「……楽しめる行事だけ毎回来ないな」
「きっと明日になれば帰ってくるんだろうネ」
「今回、何処に行ってるんだ?柳田サンは」
「確か――」
圓潮が考え込んでいる間に、最後の団子へと鏡斎は手を伸ばした。
それより先に団子を取った圓潮は、笑顔で答えた。
「××村だったよ」
「……そうか」
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11/9
【占い】
「……誕生日や血液型で性格を言い当てる本はつまらんな、柳田サン」
「そう哉?」
「オレも圓潮も雷電も、他の山ン本達も、全部同じ結果になると思うとな」
「そう言われると言葉に詰まる哉」
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11/10
【検証禁止】
「圓潮、コーラで骨が溶ける噂があるよな?」
「あぁ、都市伝説であるが、それがどうかしたかい?」
「……雷電も噂通りに溶けるのか、気になってな」
「冗談でも検証は止めておきなさい」
「少し試すだけだ」
「残念な弱点が出来てたらどうするつもりだい」
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11/11
【ポッキーの日】
「美味そうなの食ってるな鏡斎!」
チョコレート菓子を食べる鏡斎へと雷電は近づき、屈託なく要求した。
「半分くれ!」
「……半分か?」
「おう!」
半分くれ、と手を出しながら笑顔で言う雷電。
暫く黙りこんだ鏡斎は、袋から1本取り出し、パキッと半分に手折った。
そのまま、あまりチョコのかかってない方を雷電へと向けた。
「鏡斎……半分かこれ?」
「半分だろ?」
何か違ったかと真顔で聞き返す鏡斎に、首を傾げながらも雷電は受け取った。
1本の短い菓子を眺め、再度鏡斎へと聞いた。
「半分、だよな?」
「きっちり半分だ」
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12/16
【即答】
「鏡斎、クリスマスに何か欲しいものはあるかい?」
「……新しい和紙の束と墨と筆一式」
「お前さんは容赦なく高いのを複数ねだるネェ」
何万円かかるのかと、頭が痛くなりながら圓潮はため息を吐いた。
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2014/01/01
【餅つき】
「最近は餅つきが楽になったネェ」
「本当ですね、圓潮師匠」
「……命がけで返し手入れる必要ないからな」
機械の中でペタペタと白い餅が出来るのを待つ中。
一昔前までの雷電との餅つきを思い出し、三人は揃ってため息を吐いた。
end
【獅子舞】
「……圓潮。返り血で顔が赤くなった獅子が、各家を練り歩いて人を食い殺してく噺流さないか?」
「正月限定になりそうな噺でなければ、考えたかもしれないネェ」
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3/13
【問題なし】
「鏡斎、常日頃から隙さえあれば拉致監禁を実行しようとする、愛情表現がもれなく残虐な方向に行く君の事が大好きすぎる作品について、君はどう思ってるの哉」
「柳田サン……そう言う洒落にならない部分も含めて好きに決まってるだろ」
「真剣な目で言う君が怖いよ、鏡斎」
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3/15
【わがまま】
「圓潮、あの噺を語ってくれ」
「語る何も、昼間に客として聞いてただろう?」
客席で見かけた時は、珍しい事もあるものだと思った。
「大衆に向けられたあんたの声じゃ、オレは満足できん」
「お前さんは欲張りだネェ」
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4/8
【筋肉】
「聞いてくれよ圓潮! 鏡斎が寝惚けてオレの体に描きそうになった!!」
「珍しいネェ、鏡斎が紙と人の体を間違えるなんて」
「しかも一筆入れて折り目つきかよとか言って止めたんだけどよ! あれって悪口か!?」
「新品の和紙にとっては悪口だと思うよ」
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2015/02/12
【妖怪酒の効力】
「あたしらも、妖怪だったんだネェ……」
近頃、人のような生活を送っていたため忘れがちだったが、と付け加え。
転がる酒瓶を一本拾い上げ、圓潮は感心したように息を吐いた。
いつもならばまだ宴は中盤もいいところの時間帯。
わざと遅れてくれば、半壊状態の宴会場と酔い潰れた山ン本達の山。
「まさか数本で潰れるとは思わなかったよ」
酒代が安くあがったと見るべきか、後始末が大変だと見るべきか。
とりあえず、たんなる悪ふざけだったとはとても言えそうにない。
超強力な妖怪酒『妖殺し』
酒瓶に書かれた銘柄と部屋の惨状を見比べ、二度はやるまいと密かに誓った。
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10/25
【〇〇期】
「思春期なんか永遠に来なければいいのにな」
「鏡斎、地下鉄の少女にちょっと避けられただけでそんなに落ち込まなくても」
「柳田サン。あれはその内にオレの事なんか顔も見たくないとか言い出すぜ……」
「元の娘が中学生だから、避けて通れない道じゃない哉」
「そういえば前にもあったな。オレの事を避けてたくせに、いきなりオレの腕を切ろうとした思春期のやつが」
「それは反抗期じゃない哉、鏡斎」
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12/28
【鏡斎3秒クッキング】
材料:和紙…1枚、墨…適量
1.食べたい料理の絵を描く。
2.絵が実体化するのを待つ。
3.完成。
「確かにスゲェうまいけどよぉ!」
「誰にもまねできない哉」
「反則級だネェ」
「……食えればいいだろ」
end